2016.07.29 更新

阿部さんとのお話を通じて、「本質的な人生の豊かさ」のヒントを見つけることが今回のCyclingoodのテーマでした。
田舎暮らしによる自然に囲まれたのどかな生活が、やりたいことをかなえるために住まいを変えることが、「人生の豊かさ」につながるのだろうか。
そんな疑問を解くための1泊2日でした。

確かに、ここ海士町には余りある豊かな自然があります。
透き通る青い海と赤色の岸壁のコントラストが鮮やかな明屋海岸。
広大な敷地にのんびりと放牧されている隠岐牛。
あわびやサザエ、イカなど季節によって変わる魚介の数々。
日本名水百選のひとつである天川の水。
自然がもたらす産物が、長年にわたってこの町の暮らしを支えてきています。

でもやはり、この豊かな環境は、あくまでも人を育むステージ。
ここに生まれた人が、ここにやってきた人が、自分の足でしっかりと立てる人生をどう築き上げていくか、そのために何をするべきかを見つけられるかどうかにゆだねられているような気がします。
そしてここに移住してきた人はみな、阿部さんと同様に心を開いて、人々と通じ合って、つながり合いながら自分という糸を紡ぎまるで織物に仕立てていくようにここを居場所にしてきたのだと思います。

町でただ一人の陶芸家である勇木さんは、自分を甘やかさずにきびしく成長させる場所として焼き物の産地ではない海士町をあえて選んだのだそう。
島の、不安定ながらも表情豊かな自然資源(身近な素材)を大事にした作品づくりに取り組む中で、「ここでいろんな人に出会って、いろんな人の生き方を知って、ようやく最近、自分の軸が見つかったような気がしています」。


私たちをずっとガイドしてくださった大野さんは東京から海士町に来てちょうど1年。
「ここは都会に比べて選択肢が少ないので、何をするにも悩む必要が無いんですよ。
食べたいスイーツが売ってないから自分で作る。花屋がないから山から摘んでくる。
そんな風に選ぶことに時間を費やすのではなく、あるものをどう活かすかに時間を費やせることが、島ならではの豊かさなのかもしれません」。


観光協会の子会社に勤めている本田さん。ホテルのリネン類をリースするリネンサプライ業や、旅行業の資格を生かして海士町への旅の企画販売を行う傍ら、観光客向けのガイドなどにも携わっていらっしゃいます。
「夏の間のアルバイトで海士町に来たのがそもそものはじまりです。『働いてみんか』と声をかけてもらっておもしろそうだと感じ、移住を決めました。
仕事柄いろんな人と関わりがありますが、それ以外にも家の近所の人とも関わりが深く、すぐに馴染めるのが海士町の魅力だと思います」。


4年前に島根県の出雲市からこちらに移り住んだ角さん。
海士Webデパートや都会でのAMAカフェの開催を通じて活性化に取り組んでいらっしゃいます。
「海士ファンをつくっていくのが私たちの仕事だと考えているので、海士町が気になるという人にまず名産品を食べてもらう、そして島に行きたいと感じてもらうよう働きかけて“海士ファンレベル”を上げていきたいです」。

そして阿部さん。
私たち取材班が町のメンバーとのミーティングに同席させていただいたとき、阿部さんはリーダーとしてみんなの意見を聞き、引き出し、アイデアを発展させながら参加者全員が納得できるようにその場を取り仕切っていらっしゃいました。
さらに思い出されるのは、キンニャモニャセンターで次々と町の人に声をかけていく姿。
阿部さんがこうして自然なかたちで町の状況を把握していることは仕事でもなく単なる興味でもなく、ただ「無関心でない」気持ちのありようではないでしょうか。

移住した当初はただがむしゃらに町の仕事や暮らしに馴染むことに精いっぱいだった阿部さんも9年が経ち、今や町の活性化を実現する中心人物として大きな期待が寄せられています。
阿部さんのようにまではできなくても、気持ちをオープンにして他者と関わり続けることで、自分にとって心地いい場所にしていくことは、どこでもできることなのかもしれません。
どんなに小さなことにでも認められる喜び。役に立つ幸せ。
一人では絶対にかなえることができないこの関わりこそが、いくつになっても自己成長を押し上げ、「人生の豊かさ」をもたらしているような気がします。
貴重な体験をさせていただいた2日間でした。
阿部さん、そして海士町の皆さん、ありがとうございました。