2019.8.2 更新

外出の難しさや社会の孤立からの解放をめざし、
双子を一緒に乗せられる自転車を自ら開発。

「自転車を開発した人」と聞くと、技術的な知識を持ち合わせたその道のプロを想像しますが、
中原さんは事務職経験から結婚、主婦となったいわゆる一般の女性です。
長男を出産した7年後に男の子の双子を出産したことで、双子育児の難しさを痛感し、
小さな双子を安心して乗せられる自転車の必要性を実感。その強い思いが「世の中にないなら
自分で作る」という行動へとつながっていきました。とはいえ完成に至るまでの道のりは
山あり谷ありの連続…。これまでの経緯を振り返り、今後の展望を語っていただきました。

profile
profile(株)ふたごじてんしゃ 代表取締役
中原 美智子さん

2003年に長男を、2010年に双子を出産。単胎育児と多胎育児の違い、双子を抱えての外出の難しさに直面し、双子専用の自転車の開発を決意。メーカーへの企画提案・営業活動を自ら行い、2016年に株式会社ふたごじてんしゃを設立し、2018年には販売を開始。現在は、ふたごじてんしゃの発案者としてメーカーとの企画開発に関わりながら普及活動を行っている。またその一方で、NPO法人つなげるの代表として多胎家庭への育児支援にも携わっている。

前編の「中原さん」

  1. 長男の育児のときとは真逆の大変さ
  2. 「子乗せ」の自転車に双子を乗せられない理由
  3. 双子用の自転車を作るしかない、という発想

取材に伺った2019年5月当時の中原さんのオフィスは、兵庫県尼崎市の駅からほど近い「尼崎創業支援オフィス」の中。すぐそばに庄下川が流れ、木立が心地よい広場のあるアクセスにも環境にも恵まれた場所にあります。中原さんが(株)ふたごじてんしゃを立ち上げたのは2016年で、現在に至るまでふたごじてんしゃの普及活動や育児支援などさまざまな取り組みに関わっていらっしゃいます。そもそもは子育てを楽しむ一人の主婦だったのが、双子用自転車の開発をきっかけにフィールドを広げていったその背景には何があったのでしょうか。まずは長男を出産された頃のお話からお聞きしていきます。

Cyclingood
ご長男を出産されたのは、確か2003年でしたね?
中原さん
はい、そうです。結婚を機に夫の仕事を手伝っていましたが、出産後は自宅でできる程度に仕事を減らし、育児中心の生活になりました。夫は仕事に忙しく、育児をするのは基本私ひとり。それでも子どもと一緒の生活はとても楽しくて、少し大きくなってからは自転車に長男を乗せて公園に出かけ、花や虫を見つけて親子で遊ぶ時間を大切にしていました。
Cyclingood
理想的な生活ですね。
中原さん
ええ、悩みや不安などはなくて、他のお母さんたちの育児相談に乗ったりもしていました。子どもが泣いたら抱いてあげる。自然の素晴らしさを感じさせてあげる。あの頃は子どもにしてあげたいことができることが当たり前だと思っていました。
Cyclingood
そして2010年、男の子の双子をご出産され、育児の違いを目の当たりにされたのですね。
中原さん
子どもが可愛くて仕方ない気持ちは長男のときと何も変わらないのに、一度に2人の世話をすることには「こんなにも違うのか」と驚くばかりでした。
Cyclingood
たとえばどういうことが違ったのでしょう?

中原さん
何もかもが違うんです。新生児のうちは授乳やオムツ替えの回数や量などを記録しなければなりませんが、これすら追いつきません。1人が寝てくれたと安心した途端にもう1人が泣き出し、抱いてあやしてまた眠らせる…と、ずっと子どもの世話に追われている状況です。これが毎日です。私自身の睡眠時間は数時間の細切れで、24時間張り詰めている状況でした。
Cyclingood
1人と2人ではそんなにも違うんですね。
中原さん
長男のときの経験があるから大丈夫だと思っていましたが、私の想像を超えた大変さでした。私自身がここまで疲弊してしまうのかと。実は双子をもつ親の虐待率は、子どもが1人の場合の4倍とも5倍とも言われているそうです。自分がいつかそうなってしまうのではないかという不安や恐怖が私を追い込み、その都度「頑張ってもできないことがある」と自分に言い聞かせていました。
Cyclingood
その頃、特に辛かったことは何だったのでしょうか。
中原さん
子どもが成長して外出ができるようになっても、長男にしてあげていたことを何一つできないことでした。「公園に行く」ということひとつ、一度に2人を連れていくことは難しいのです。双子用ベビーカーは2人を乗せて荷物を入れると30kgほど。私ひとりでこの重さを押していくことだけでも大変で、さらに子どもが泣き出すと抱いてあやす、両手がふさがってしまう、というこちらが泣きたい状況になります。先が読めない、外出すらままならないということが、自分で何もコントロールできないというストレスになり、子どもの成長に必要なことをさせる機会を失っているというジレンマになっていきました。
Cyclingood
子どもを乗せられる自転車でも外出は難しかったのでしょうか?
中原さん
一般的に『子乗せ』といわれる自転車の場合、最大2人の子どもを同時に乗せることができますが、多くは前が4歳未満、後ろが6歳未満と年齢・体格の違うきょうだいを想定して設計されています。双子の場合は体格が同じなので、どちらかが窮屈だったり、大きすぎたりとサイズが合わず、安心して使うには限界がありました。

Cyclingood
なるほど。そういう現実があるのですね。そのような経緯から「ふたごじてんしゃ」を作るというお気持ちになっていかれたのですか?
中原さん
探しても世の中に無いことがわかり、「無いなら作るしかない」と思うように変わっていきました。もし双子を安心して乗せられる自転車があれば、公園へも買い物にもどこへでも気軽に連れていくことができます。特に子どもが小さなうちは、役所や病院など数百メートルから2キロ以内の近場の移動が多く、自転車が一番小回りがきいてラクなんです。クルマにも乗りますが、どこへ行くにもその都度駐車場のことを考えなければなりません。自転車なら大抵駐輪できるスペースがあり、サッと止められますからね。
Cyclingood
どんどん「ふたごじてんしゃ」に近づいていく感じですね。
中原さん
それがですね…。構想はふくらむものの、なかなか現実は厳しいものでした。協力してくださるメーカーさんが見つからない、という次の問題が待っていました。

長男のときとは何もかもが異なる双子の育児。
親としてこれでいいのかと自分を責めることも少なくはなかったそうです。
せめて双子と一緒の外出を容易にする自転車があればという中原さんが描いた希望は
どうなっていくのでしょうか。後編に続きます!

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