2016.07.29 更新

阿部さんが9年間をかけてしっかりと、丁寧に築き上げてきた海士町での自分の居場所。
その足跡をたどるために2日目は巡の環のスタッフの大野さんに町を案内してもらいながら、目には見えない「居場所のかたち」を探ってみることにしました。

ここは由緒ある宇受賀命(うづかみこと)神社前。
今年もこの一画を借りて巡の環メンバーや友人たちと田植えをしたそうです。
「秋になると稲穂が実って、黄金色に輝く景色が本当に美しいんですよ」と大野さん。
キラキラと輝く風景をイメージしながら田んぼを眺めていたら、「あっ」と気づいたことが。

「そうなんです。歪んでいるでしょ。この苗」
確かに普通なら直線に植えられているはずの苗がカーブを描いています。
「農家の方にゆずっていただいた手押しの機械を使っているのですが、今回は初心者のメンバーが多くて上手くできなかったんですよね」と話しながら、この場を後にしました。

「ちょうどWebサイトで販売するサザエをうちのスタッフが引き取りに行っているようです。行ってみますか?」と大野さんに誘われて、ふたつ返事で漁港へ。
ザルに上げたたくさんのサザエを巡の環のスタッフの角(すみ)さんが数えているところです。
「70個ありました」と角さんが報告すると「じゃあおおよそ8kgだろ」と漁師の中前さん。
年配の漁師さんと若い女性が肩を並べて話をしている姿がなんとも微笑ましい。

中前さんと大野さん、角さんの3人が港を歩きながら話しているのはどうやら先ほどの田んぼの件のよう。
「なんであんなに苗が歪んどるんじゃ」と中前さんが言うと「いや、あの、それは、一生懸命やってみたんですが」と返すのが精いっぱいな2人。
ついには「あんたらは機械を押してるんやない。引っ張られとるんや」とぐうの音も出ないお言葉。
それでも3人で漁港を歩きながら苗の植え方について語り合っている姿はとても楽しそう。
でも中前さん、わざわざ神社の前まで苗を見に行かれたのでしょうか。やさしいなあ。

こちらは米農家の向山さんと小前さんが田植えをしているところ。
ここでも農家のお2人に「苗が歪んでいる」と話題にされていたところを見ると、巡の環のメンバーがこの町の人たちにどれほど気にかけられているのかがよくわかります。
この後、海士町に伝わる「きなこおにぎり」について立ち話。
「みんな昔は家できなこを作っとってな、おにぎりにまぶして食べるんや」
「え?それってぼたもちみたいなもの?甘いんですか?」と何気ない雑談に花が咲きます。

阿部さんが切り拓いた町の人との関係が、こうして若いスタッフに引き継がれ、その輪が確かに広がっていることを感じたこのエピソード。
「歪んだ苗」を島の人たちが知っていて、つっこまれて、会話が広がっていくこの姿から、阿部さんがお話しされていた「町のみんなが人に、町に無関心じゃない」ことがはっきりと感じられます。
居場所って、受け入れてもらってはじめてできるもの。
受け入れてもらうためには、自分から心を開かないとはじまらないもの。
そう話されていた阿部さんの言葉が、改めて胸に刻まれます。