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2015.01.22 更新
六本木ヒルズの「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」をはじめ、保育所、医療施設とあらゆる場所で「本と人の出会いの場」を創っているのが、ブックディレクター幅さんのお仕事。
小説、百科事典、歴史書、写真集と、ジャンルを問わずさまざまな本に関わってきた幅さんにとっての本の魅力、そして本と自転車との共通点についてお話しを伺いました。
幅 允孝(はば よしたか)
そこにいる人にとって、一番フィットする本は何か?
思わず手が伸びる一冊を見つけるために、何度も現場へ。
特殊な場所だけにヒアリングがとても重要だと思うのですが。
もちろん。私の仕事は現場が8割です。
例えば病院の場合、患者様やその家族、ドクター、職員の方などあらゆる方にインタビューワークを行い、そこにあるべき本との距離を近づけなければなりません。
今って検索型の世の中でしょう。欲しいと思えばダイレクトに手に入る。
そういった中にあって、知らない本に出会ってもらう機会をつくるのが私の仕事です。
その場所に、そこにいる人に、フィットした本は自然に手を伸ばしてもらえるはず。場所・人・本との価値ある接点をどうつくるかが大事だと考えています。
例えば佐賀県の心療内科は、主に認知症の方が通院で利用されている状況でした。ということはご家族が付き添われています。
患者様は短期的な記憶を失われているケースが多い。ご家族の多くは介護によって疲弊されている。
そのような人が集まる待合室に、どんな本があれば患者様やご家族の方に興味をもって開いてもらえるのかと考えました。
さまざまな書籍を用意しましたが、佐賀県の地場に即したもの、例えば地元に生息する植物図鑑や、農耕具やオート三輪の写真集などに興味をもっていただいたようです。もちろん、ひとり一人興味の対象は異なりますが古い記憶に寄り添ったものが良かったようです。
たまたま開いたページから読み進めることと、遠回りでも好きな道を選んで走ることは似ている。
あくまでも自転車は移動の手段。
その先に何が起こるのか、目的地までのプロセスをどう楽しむのかという自転車がもたらす広がりを大切に書籍を選んでいます。
自転車って自分のペースで進めますよね。
ということは、時間をコントロールできる面白さがあるんですよね。行ったり、戻ったり、止まったり。
何にも束縛されずに、自分の気持ちひとつで時間を組み立てられるこの自由さは、本と向き合うことと似ているかもしれません。
私もそう思います。さらに、関わり方にも相似点があるかもしれませんね。
私は子どもの頃から自転車に乗っていました。
通学に使っていましたし、大人になってからもまるでペットに接するかのような愛着をもってMTBに乗っていたんです。
自分と関わったからにはきちんと大切にしてあげたい性格なもので...。
そうしているうちに、自転車が自分の身体の延長のような気持ちになっていきました。
いろいろな自転車を乗り換えるように、たくさんの本を読んでいくこともそれは素晴らしいことですが、気の合う一台を長く乗り続けるように、強く心に刺さった一冊を人生のパートナーとして付き合っていくことも豊かな関わり方だと思いますね。
薬ならすぐに効果が出ないとダメですが、本からのメッセージは、その人によっていつ効いてくるのかわかりませんよね。
今かも知れない。死ぬ直前かも知れない。
いつ実を結ぶのかわからないこともまた本の魅力なのですが、ただ好きだから読む。ただ好きだから自転車に乗る。
気がつけばずっと自分のそばにあっていつか何かの変化を感じさせてくれるのがいいのだと思っています。
実業団に入った主人公が、アシストとしてエースと付き合い、他のメンバーとの人間関係を絡めて展開しながらある日事故が起きます。この事故は意図的なものでは?と考えた主人公がレースを通じて謎を解いていく...というストーリー。めちゃくちゃ面白いです!自転車に詳しくない人にも最後まで楽しんでもらえるはず。
50歳を過ぎてとあることをきっかけに「体力をつけよう」と始められたのが自転車で、国内・海外で自由に走っているロックなだけではない清志郎さんを感じることができます。私は特にキューバで走っている写真がカッコ良くて好きですね。あと、心情をシンプルにはき出しつつ自転車の喜びが伝わってくる文章にもグッときます。