2019.10.18 更新

書くことが好き。伝えることが好き。
さらに自転車の魅力に出合い、「cycle」編集長の道へ。

2008年の創刊からこれまでに43号発行している自転車のフリーペーパー「cycle」。青いタイトル文字が印象的なこの情報紙を皆さんも一度は手にしたことがあるのではないでしょうか。
「cycle」の制作に長年携わり、現在は編集長を務められているのが杉谷さん。出産後も仕事を続けてこられているこれまでの経緯と、「cycle」そして自転車に対する思いについてじっくりとお話を伺いました。

profile
profile季刊紙cycle 編集長
杉谷 紗香さん

1981年大阪生まれ。2004年京都造形芸術大学芸術学部情報デザイン学科卒業。在学中に書籍『キョウト自転車生活』の編集に関わったことをきっかけに、卒業後、株式会社ワークルームに勤務。同社にて『京都自転車デイズ』『大阪自転車ホリデー』などの書籍や企業媒体の編集に携わり、2008年よりフリーペーパー『cycle』編集長に。2015年に独立し、(株)ピクニック社を設立。2014年〜2019年京都造形芸術大学芸術学部情報デザイン学科にて非常勤講師を務めた。

(cycleホームページ→http://www.cycleweb.jp/

前編の「杉谷さん」

  1. モノづくりのルーツは家族新聞
  2. 取材に走る相棒に、軽快な小径車を選んで
  3. 新しい自転車フリーペーパーの制作担当に抜擢

9月というのに突然雨が降り出す不安定なお天気のある日、杉谷さんが代表を務める(株)ピクニック社にお伺いしました。このときの杉谷さんのオフィスは下町風情が残る長屋の一角。私たち取材班が到着すると「cycle」ブルーと同じカラーの小さな扉が開き、笑顔で迎えてくださいました。玄関口の段差には一枚の板が置かれ、さすが自転車の出入りにぴったりな仕様。歴史ある自転車情報紙の編集長を務められてこられた杉谷さんが最初に私たちに見せてくださったのは意外なものでした。

Cyclingood
「すぎのこ通信」?これはもしや、家族新聞ですか?
杉谷さん
はい、そうです。私が小学6年生、弟が小学3年生のときに、母が手描きで作った創刊号がこれです。山歩きが好きだったこともあり、家族で歩いた道のりを記録したり、裏面にはほら、私が書いた創作童話も。他に母の料理レシピや映画・本の情報など、細かな家族の記録がまとめられていて、私が人生で一番最初にふれた「紙の文化」になります。
Cyclingood
とても素敵ですね。なぜお母さまはこれを作ろうと思われたのでしょう?
杉谷さん
当時の我が家は引っ越しすることが多く、私たちの暮らしぶりを家族新聞という形にまとめて残すと同時に、知人や親戚に郵送して知ってもらうことも目的だったようです。季刊で年4回、絵を描いたりハンコを作って表現したり、改めて見ると母のこだわりや大切にしていることがよく伝わる内容になっていると思いますね。
Cyclingood
杉谷さんの現在のお仕事につながる最初の思い出が、 この家族新聞なんですね。
杉谷さん
そうですね。この影響もあって、高校生の頃から友人とフリーペーパーを作ってコピーしたものをみんなに渡していましたね。紙に書いて表現することが私にとってはとても当たり前のことだったように思います。
Cyclingood
高校生の頃から。その後はどのようにこの道を進んでこられたのでしょう?

杉谷さん
大学は広告・デザイン系の学科に進学しました。所属していたサークルもフリーペーパーを出していた音楽サークルで、情報発信に関わる世界にどっぷり浸っていました。当時アルバイトをしていたカフェの運営会社がフリーペーパーなど紙媒体の制作を行っていて、「今度本を出すから取材を手伝って」と言われたのが仕事として取り組んだ最初ですね。まだライティング力がないので、とりあえず取材先に行って話を聞き、聞いてきた内容を伝えるという業務でした。
Cyclingood
学業とアルバイト、どちらも制作ですね。大変そうです。
杉谷さん
このときの仕事が『キョウト自転車生活』という書籍の制作で、とにかく無我夢中でした。自転車の書籍といえばスポーツ系が主流だった当時では珍しい、自転車でのゆるやかな街めぐりを紹介する内容で、最初は自分の軽快車でぐるぐると取材に回っていました。ところが10kmくらい走ると結構疲れてきて、そうだこんなにいろんな自転車があるじゃないかと気づいたんです。なにせ自転車の書籍でしたから。
Cyclingood
確かに取材先でもいろんな自転車に出合えそうです。
杉谷さん
早速、折りたたみ式のスマートな小径車を買いまして、それからはどこに行くのもこの自転車で。10kmを超えても疲れないですし、取材にもこの自転車で行くようになりました。

Cyclingood
杉谷さんの自転車愛のはじまりですね。
杉谷さん
ちなみにこの小径車は今でも愛用していますよ。長年にわたって私の足として活躍してくれています。
その後、この会社への就職が決まり、私のライター人生が本格的に動き出しました。2008年に出版された『大阪自転車ホリデー』という自転車関連書籍の制作にも関わり、書くスキルと同時に自転車の知識も次第に積み上がっていきました。そんなときに社長から声をかけられまして...。
Cyclingood
なんと声をかけられたのでしょう?
杉谷さん
「今度自転車に特化したフリーペーパーを発刊するからメインで編集を担当してくれないか」と。その頃はポタリングという言葉がまだ広まっていなかったほど、今のような自転車の多様な楽しみ方が大きく取り上げられることがなかった時代です。その一方でフリーペーパーが盛んであり、私たちが作るものは世の中にないものにしないといけないという強い思いもありました。そこで社長が考えたのが「文化系 自転車乗り」というコンセプト。女性を中心とした自転車ビギナーを対象に、アート・食・旅などのジャンルと結びつけた企画を柱にすることになりました。
Cyclingood
自転車系メディアとしては、かなり画期的だったと想像します。
杉谷さん
スタッフは私以外にライターが3人、デザイナーが2人。この体制は今も同じです。創刊の頃は「関西」「ビギナー」「女性」をテーマに、自転車の使い方やスポーツバイクの買い方など、ともかくおもしろいことを詰め込もうとみんなで話し合いながら企画を練っていきました。

「書くことが好き」な気持ちが仕事になり、
そこに「自転車って楽しい」という気持ちが重なっていった杉谷さんのお仕事。
「cycle」の制作を任されることになり、
杉谷さんと自転車の関わりはより深くなっていきます。
この後、杉谷さんに人生の転機が訪れることに。気になる続きは後編にて!

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