2016.07.22 更新

ウソをつかず、正直に心を開くことで、
相手と気持ちが結びついていく。

阿部さん
それでもう一つ思い出したことがあります。
就職活動中に、ある大手企業から内定をいただいたんです。
でも私にとって本命のトヨタの採用試験は未だで、この先どうなるかはわからない。
今この内定を受け取っておいて、うまくトヨタに受かればこっちをお断りすればいいのかもしれませんが、でもそうすると、わずかな採用人数の1名分を私でつぶしてしまう。
Cyclingood
うーん。良心が揺らぎますね。
阿部さん
いろんな人に相談して、「受け取っておけば」という意見もあったのですがさんざん考えた末に辞退を決めました。大きなところでウソはつかない。悪意のあるウソはイヤだと考えたのです。
それで内定をもらった翌日に会社を訪問して上役の方に辞意を伝えました。
Cyclingood
阿部さんの気持ちを受け止めてくださったのですね。

阿部さん
そう。ウソをつきたくないという私の気持ちに応えてくださいました。
今思えばこのような就活を経てトヨタに入り、トヨタを辞めて今がある。
上司をはじめ、いろんなたくさんの方にお世話になり、教えていただいたからこその今です。
いつか必ず、恩返しをしなければいけませんね。
Cyclingood
つねに正直であること。相手に心を開くこと。
都会で身につけた阿部さんのその姿勢が島での暮らしに大いに生かされ、きちんと関係を築いてこられたことがよくわかります。
阿部さん
そうですね。私が大事にしているのは真摯に向き合うことなのかもしれません。
まず自分が心を開いて相手の話を聞かないと、相手も私の話を聞いてくれません。
でもそうしながらスッと思いが結びついたときの気持ちよさったらね。いいんですよ、ほんと。

あたたかくもあり、わずらわしくもあるからこそ、一生つきあい続けたいと思える確かな関係に。

Cyclingood
これからも海士町にずっといらっしゃるおつもりですか?
阿部さん
ええ、今のところ島を出るつもりはありません。
ただ、人生には何があるかわからないですよね。
そんなことを話したら60代後半の女性に、「ウソでもいいからずっとここに居るって言って」と泣きつかれたところです(笑)。
Cyclingood
なんとなくわかります。
それだけ阿部さんがこの島にとってかけがえのない人なんですね。

阿部さん
ちょっと極端な表現になりますが、私にとってはこの人たちと出会えたことがとても幸せで、みんなと一生付き合うつもりでいるし、一緒に死んでいく感覚をもっているんです。
そのくらい本気で強く結びついている。
そこにはあたたかさと同時にわずらわしさもあります。
でもそのどちらもが、確かな人間関係を構築する上で必要なのだと感じています。
Cyclingood
そんな風に胸を張って言えるつながりがなんだかとてもうらやましいです。
阿部さん
ありがとうございます。
私は日頃から「根回しは気配り」と思っていてその人にとって心地よくなるにはどうしたらいいのかと考えるクセがついてしまっているんですよ。
相手の立場を考えて、円滑にするための配慮を失わないように気をつけています。
それが巡の環のスタッフにも受け継がれていることがうれしいですね。

縁側から望む風景に注ぐ太陽の光が少し弱くなってきました。
私たち取材班は巡の環の大野さんに「海士町を一望できる場所があるんです。ぜひ」とお声がけいただき、展望台へ。
水を張った田んぼがきらめき、山と海が交差する美しい夕景にしばらく見とれます。
あの田んぼを耕す人がいて、あの海で漁を営む人がいる。
そしてこの町に惚れ込んで日本の各地から移住を決める人がいる。
この美しい景観と阿部さんの言葉から、この町が人を大らかに包んでくれる魅力にあふれていることが感じられました。