2023.01.25 更新

愛車と走り抜けた少年時代。
世界を広げてくれた思い出が、
自転車活用推進という活動の原動力。

環境への負担軽減や国民の健康増進を目的として2017年に施行された『自転車活用推進法』。なぜ国として自転車を推進する法律ができたのか?どのような法律なのか?よく知らない方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、『自転車活用推進法』のもとになる提言の起草者である、NPO法人自転車活用推進研究会理事長の小林成基さんにお話を伺いました。小林さんと自転車との出合いから、法整備へと至った思いや現在までの経緯をじっくりとお聞きします。

profile
profileNPO法人自転車活用推進研究会 理事長
小林 成基さん

1949年生まれ、奈良県出身。駒沢大学文学部英米文学科卒業。コピーライター、雑誌編集者、通販会社取締役などを経て衆議院議員公設秘書、政策担当秘書、大臣秘書官として国会で20年間立法活動。退職後、(財)社会経済生産性本部エネルギー環境政策部主任研究員として廃棄物、バイオマス、環境行政に関わる一方で、アクト・ローカリーの一典型としての自転車活用を提唱、自転車活用推進研究会を創設。独立後、2006年7月、研究会をNPO法人化。現在は理事長として、国交省、警察庁、自治体の自転車関係会議委員を務める。著書に化学工業日報社『2050年戦略Ⅱ 進まない日本のイノベーションー危機的状況からの脱却』(共著)など多数。

後編の「小林さん」

  1. 法律を"研究"するために
  2. 自転車は不当な扱いを受けている!?
  3. 地道な改善を積み重ね、法律へ

10代を共に過ごした愛車"太郎"との思い出話に顔を綻ばせる小林さん。「どうして手放しちゃったんだろう」と、太郎を譲ったことで途切れた自転車との縁を悔やまれますが、その縁は"環境問題"という新たなカタチでつながっていきます。

Cyclingood
自転車の可能性を感じはじめたことが、法整備へとつながるのですか?
小林さん
私は政策秘書として働いていましたから、自転車の法律を調べてみました。すると、例えば道を曲がる際には手を上げたまま運転して、合図を出して...、などルールが細かく自転車では不可能ではないかと思われるものも多い。これは変えるべきだろうと思ったのですが、法律はそう簡単には変えられません。そこで、まずは1999年に自転車愛好家の議員108名を集めて「自転車活用推進議員連盟」を、翌2000年には12名の仲間と共に「自転車活用推進研究会」を立ち上げました。
Cyclingood
研究会を立ち上げた狙いは何だったのでしょうか。
小林さん
現在の自転車のルールの根底である道路交通法は、クルマ主体で作られているために自転車に当てはめることが難しいものも多くあります。こうした法制度を徹底的に調べ、自転車をより活かせる社会環境や、自転車の価値そのものを根本から見直そうと考えました。

Cyclingood
だから"研究会"なのですね。
小林さん
実際、自活研を立ち上げた当初は国会図書館にこもって"自転車"という言葉が含まれる記事や書籍を片端から調べました。すると、知れば知るほど自転車が不当な扱いを受けているとわかってきました。
Cyclingood
不当とはどういったことでしょう?
小林さん
例えば、子どもや老人の場合は自転車でも徐行すれば歩道通行が可能ですが、その徐行速度を調べてみると時速4〜5kmで歩行とほぼ同等。これでは自転車に乗る意味がないどころか、転倒する危険さえあります。こうした問題を見つけては、ひとつずつ制度の改善に取り組んできました。その成果が、2017年に施行された「自転車活用推進法」です。
Cyclingood
地道な研究と改善を重ねて、法律として定めたのですね。
小林さん
活動を進める中で、やはり自転車は世界を救う可能性を秘めていると実感できました。この価値ある乗り物を、国としてどう捉えるかを発信する必要があると感じ、「自転車活用推進法」の基本理念に「自転車は環境に優しく、健康に寄与し、広く生活全体に好影響があるため、国として活用を推進する」ことを明記しました。

Cyclingood
この法律ができたことで、自治体の自転車活用も活発になりました。
小林さん
自治体や事業者の責務として、道路整備や自転車による健康促進に努めるよう記載したことで、近年各地で自転車レーンが増加するなど成果が目に見えるようになってきました。
Cyclingood
法律施行から5年。現在はどのような活動を?
小林さん
自治体の講演会などに足を運び、自転車の価値や全国の活用事例を伝えています。法律は作ってからが肝心。まだまだ課題は山積みです。

Cyclingood
小林さんの精力的な活動の原動力は何なのでしょう。
小林さん
価値ある自転車を、正当に評価してほしい、価値を正しく伝えたいということでしょうか。私の幼少期は、自転車によって行動範囲が広がり、見える世界が変わりました。子どもでも大人でも乗れるという点で、ほかの乗り物には代えがたい価値があります。そして自転車を自分で操作して進んでいく時間は、人が生きている手応えを与えてくれる。自転車は、人を幸せにする乗り物です。
Cyclingood
人を幸せにする乗り物。自転車の価値を知り尽くし、現在も自転車に親しまれる小林さんならではの言葉です。
小林さん
自転車を取り巻く環境が変われば、人と自転車はもっと良いパートナーになれるはず。例えば、輪行(自転車の持ち込み)可能な電車が増えれば、クルマを持たない若者や、私のような高齢者の行動範囲が広がります。それは人を自由にし、孤独から救うことにもつながるでしょう。年齢に関わらず自転車に乗りやすい環境をつくるために、これからも研究に努めたいですね。

かつて太郎と名付けた愛車と寄り添い旅をした日から、自転車環境の改善というひと続きの道を走り続ける小林さん。
今後より一層、環境改善が進み、誰でも安全に自転車を楽しめる、誰もが自由を感じられる未来まで、小林さんの活動は続いています。

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