2019.10.25 更新

書くことが好き。伝えることが好き。
さらに自転車の魅力に出合い、「cycle」編集長の道へ。

2008年の創刊からこれまでに43号発行している自転車のフリーペーパー「cycle」。青いタイトル文字が印象的なこの情報紙を皆さんも一度は手にしたことがあるのではないでしょうか。
「cycle」の制作に長年携わり、現在は編集長を務められているのが杉谷さん。出産後も仕事を続けてこられているこれまでの経緯と、「cycle」そして自転車に対する思いについてじっくりとお話を伺いました。

profile
profile季刊紙cycle 編集長
杉谷 紗香さん

1981年大阪生まれ。2004年京都造形芸術大学芸術学部情報デザイン学科卒業。在学中に書籍『キョウト自転車生活』の編集に関わったことをきっかけに、卒業後、株式会社ワークルームに勤務。同社にて『京都自転車デイズ』『大阪自転車ホリデー』などの書籍や企業媒体の編集に携わり、2008年よりフリーペーパー『cycle』編集長に。2015年に独立し、(株)ピクニック社を設立。2014年〜2019年京都造形芸術大学芸術学部情報デザイン学科にて非常勤講師を務めた。

(cycleホームページ→http://www.cycleweb.jp/

後編の「杉谷さん」

  1. 事業継承によって、独立、起業へ
  2. 出産しても、「cycle」は続ける
  3. 海外の自転車文化を、日本にもっと

大学時代からアルバイトとして書籍の制作に携わり、そのまま就職に至った杉谷さん。自転車関連の書籍を主に担当してきたことで自転車に対する知識を深めながら、ライターそして編集者として成長していきます。そんなとき社長から「自転車に特化したフリーペーパーを新たに作る」「そのメインの制作を任せたい」と声をかけられ、現在の「cycle」の制作に本格的に取り掛かることに。当時では珍しい自転車ビギナーを対象にしたかつてないフリーペーパーがこうして誕生しました。

Cyclingood
「cycle」が創刊した2008年当時から現在まで、
編集面で変わったことはあるのでしょうか。
杉谷さん
「文化系 自転車乗り」というコンセプトやターゲットはそのままですが、大きく変わったのが配布エリアです。立ち上げ当初は関西圏だけの配布先だったので、掲載する内容もこのエリアに絞ったものでした。ところが10年以上が経ち、次第に設置店が中部・関東エリア、そして全国にも広がっていったため、現在は拡大した配布エリアに準じた情報を取り上げるようになっています。
Cyclingood
それだけ多くの人に「cycle」が支持されている表れですね。
杉谷さん
ありがたいことに広告主さんも広がり、定着していただいているので、10年が過ぎた今でも制作そのものを楽しむことができています。私の仕事はこの「cycle」だけでなく、企業などの制作物を請け負うフリーのコピーライター・エディターでもあるので、「cycle」は自分の思いを注ぎ込める大切な仕事になっています。
Cyclingood
杉谷さんは現在(株)ピクニック社の代表でもありますよね?つまり前の会社から独立されたのですよね?
杉谷さん
はい。創刊から7年後の2015年に「cycle」の事業継承の話が持ち上がり、私が会社を作って引き継ぐことを決めました。ちょうどこの頃、次男を出産する前で生活環境が大きく変わる時期と重なったんです。

Cyclingood
出産と独立...。一般的に考えると、独立に躊躇するように感じますが。
杉谷さん
もちろん悩みましたが、やはり自分の人生に「cycle」の仕事があった方がいい。続けられるだけやってみようという気持ちが強かったです。結果的に出産後は自宅で子育てをしながら仕事と両立させ、半年後には「cycle」以外の仕事にも取り掛かっていました。
Cyclingood
それはすごいですね。でもそのときの決断が、
今につながっているんですね。
杉谷さん
今では海外取材に子どもを連れていくことも増えました。母親としての視点で自転車文化を捉えるこようになったのが自分でも面白いと感じますね。「cycle」は各号、季節感を意識しながら食や旅、学びなどをテーマに取り上げていますが、これは私自身が好きなものそのままなんです。なので、取材や撮影に各地へ赴き、その土地の食や文化、自然にふれられることが何より楽しみになっています。
Cyclingood
好きなことと仕事が一緒になるって素晴らしいです。
杉谷さん
もちろん、私が好きな世界へ気持ちよく連れて行ってくれる自転車も私にとって大切なもののひとつ。特に海外に行くと、日本との違いを感じることが多く、とても勉強になります。
Cyclingood
たとえばどういう違いがあるのでしょう。
杉谷さん
自転車にいろんな役割がある、という感じでしょうか。特にヨーロッパでは暮らしに密着した仕事の道具としてのカーゴバイクをよく目にしますし、元気にEバイクを走らせている年配の方にも出会いました。愛犬を載せていたりね。かわいいんです。いろいろな世代、仕事の人が、自分の好きなスタイルで自転車を使い、それが日々の生活にしっかりと根ざしている。そんな情景を目の当たりにすると、日本はまだ自転車文化として追いついていないんだなと感じますね。

Cyclingood
単なる交通環境の違いだけでないものがあるんですね。
杉谷さん
そうですね。日本ではまだ実用かスポーツかという用途が目立ちますが、ヨーロッパでは実際、趣味や習慣的な運動など、さまざまな楽しみに使われています。私は日本にもこうした自転車文化を根付かせたいと強く思っています。そしてこの思いを「cycle」に注いでいます。
Cyclingood
「cycle」を通じて、どんな自転車文化を育んでいきたいと
お考えでしょうか?
杉谷さん
ご覧の通り「cycle」は、毎号特集の他、自転車にまつわる最新のトピックを集めた「NEWS&REPORT」やサイクリングに適したエリアやコースを紹介する「遠のり近のり」、本や映画の紹介コーナーなど、紙面にぎっしりと情報を掲載しています。ここには、これまで自転車に意識的に乗っていなかった人にも自転車のある生活を楽しむきっかけを作りたいという思い、そしてもっとみんなが気持ちよく自転車に乗れる社会になってほしいという気持ちを込めています。文化的視点により自転車の楽しみ方の種をまき、楽しむ人を増やし、その結果自転車文化の発展につながっていけばうれしいです。

現在、杉谷さんのお子さんは6歳と3歳。
自転車に乗るときも一緒のことが多く、今は「一人で乗りたい欲求が高まっている」のだそうです。
手描きの家族新聞を仕事のルーツにもつ杉谷さんが好きなものは、
自然、旅、食べ物などどれも気持ちを切り替えてくれる、ワクワクさせてくれるものばかり。
この好きなものをつないでくれるのが自転車であり、自転車に乗る時間そのものも
杉谷さんにとってワクワクの対象なのだろうと想像します。
みんなにこの楽しさを届けたいという、ただそれだけのずっと変わらない思い。
これからまた、どんな視点で自転車文化を発信されていくのか楽しみにしています。

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