2019.8.9 更新

外出の難しさや社会の孤立からの
解放をめざし、双子を一緒に乗せられる
自転車を自ら開発。

「自転車を開発した人」と聞くと、技術的な知識を持ち合わせたその道のプロを想像しますが、中原さんは事務職経験から結婚、主婦となったいわゆる一般の女性です。
長男を出産した7年後に男の子の双子を出産したことで、双子育児の難しさを痛感し、小さな双子を安心して乗せられる自転車の必要性を実感。その強い思いが「世の中にないなら自分で作る」という行動へとつながっていきました。とはいえ完成に至るまでの道のりは山あり谷ありの連続...。これまでの経緯を振り返り、今後の展望を語っていただきました。

profile
profile(株)ふたごじてんしゃ 代表取締役
中原 美智子さん

2003年に長男を、2010年に双子を出産。単胎育児と多胎育児の違い、双子を抱えての外出の難しさに直面し、双子専用の自転車の開発を決意。メーカーへの企画提案・営業活動を自ら行い、2016年に株式会社ふたごじてんしゃを設立し、2018年には販売を開始。現在は、ふたごじてんしゃの発案者としてメーカーとの企画開発に関わりながら普及活動を行っている。またその一方で、NPO法人つなげるの代表として多胎家庭への育児支援にも携わっている。

後編の「中原さん」

  1. 私を自由にした初代「ふたごじてんしゃ」
  2. この解放を、もっと多くの人に
  3. あらゆる人の自律に役立つ自転車を、社会を

双子の育児の大変さと難しさに直面し、せめて移動を自由にする「双子を乗せられる自転車があれば」と思い至った中原さん。それは外出の不自由さから家に閉じこもりがちになる、社会との接点を失いがちになる...という不安や孤立からも救われるひとつの手段でした。しかし日本にはまだ双子の同乗用自転車が無いという現実に加え、作ってもらうにもお願いできるところが無いという新たな壁に直面。その後中原さんはどのようにしていったのか引き続きお聞きしていきます。

Cyclingood
双子用の自転車を作ってもらえるところが見つからないと...
中原さん
最初に声をかけたのは近所の自転車屋さんでしたが断られ、その後電話帳やネットで検索して自転車関連の会社に問い合わせましたが、安全性の保証や道路交通法などの理由でどこからも快諾いただけませんでした。次第に「私の要望が間違っているのか」と思うようになっていきました。
Cyclingood
その後どうなっていったのでしょうか?
中原さん
たまたま古い新聞記事に載っていたリヤカーメーカーさんを見つけ、連絡をしてみたところ何とかお願いできることに。後ろに双子を乗せられて安定感があり、ゆっくり走れて見た目もかわいいという私の理想の自転車がようやく完成しました。初めて乗ったときに「自由だ!」と心の底から湧き上がってきたのを今でも覚えています。
Cyclingood
その心からの開放感、とても伝わってきます。
中原さん
これさえあれば私が連れていってあげたい場所に一緒に行ける、長男のときと同じようにいつでも自然にふれる体験をさせてあげられると目の前がパッと明るく照らされたような気持ちになれました。この1台の自転車のおかげで、やりたいことができるという自由を得ることができたのです。

Cyclingood
でも中原さんの思いはここで終わらなかったのですよね?
中原さん
はい。私と同じように双子の育児で大変な思いをしている世のお母さんたちにもこの自転車を届けたいと思うようになりました。しかしこれを作ってくださったリヤカーメーカーさんでは量産はできないと言われ、またイチからのパートナー探しになったのです。
Cyclingood
もうご自身の自転車があるのですから、ここで諦めてしまおうとは思われなかったのでしょうか?
中原さん
それはありませんでした。なぜなら双子を育てることがどれほど大変かが身にしみていたからです。私自身があの頃感じていた無力感、孤独感は、本来子どもとの生活で得られる幸福感を奪ってしまいました。こんな状況になっているお母さんがいるなら少しでも力になりたい、この1台の自転車で少しでも育児の楽しさにつなげてほしい。そういう気持ちがとても強かったです。
Cyclingood
そして商品化に向けて奔走されることになるのですね?
中原さん
自転車の構造や技術のことは何もわかっていませんでしたが、メーカーさんを検索してコンタクトを取って、いかにこの自転車が双子をもつ親にとって大きな意味をもつかをお話しました。しかし「市場性は」「安全性は」というビジネスの側面から考えると、YESと言っていただくことは難しく、この現実にぶつかりながらと子育て関係のイベントに出展して試乗会を行い、保護者の声を集めるなど商品化に向けた情報収集を行っていました。
Cyclingood
そしてついにオージーケー技研(株)さんに出会われたのですね?
中原さん
オージーケー技研さんは自転車用チャイルドシートでも有名なメーカーさんで、現在の社長、当時は専務の木村さんが対応してくださり、最初から市場性やビジネスプランよりも「試乗会でどんなお声が集まっていますか?」と聞いてくださったあの瞬間がとても印象に残っています。その後「やりましょう」とおっしゃっていただき、ふたごじてんしゃの販売を開始したのは2018年。現在はアセスメント診断を通じてご納得いただいた方への販売方法を行っています。

Cyclingood
そのアセスメント診断を取り入れている理由は?
中原さん
自転車に乗る目的はさまざまですから、同じ双子をもつ親でもこの自転車では目的を果たせない場合もあります。とりあえず買うには高価ですし、実際に2人を乗せて走ることのできる期間も限られています。ふたごじてんしゃの特性を理解いただき、この自転車がご自身がやりたいことや目的に合うかの確認をしてからご購入いただく流れにしています。
Cyclingood
では最後に、中原さんのこれからの展望をお聞かせください。
中原さん
日本の未来なんて考えたことのなかった私が、今回の経験によって社会がより良くなるために何かできることをしたいと思うようになりました。自転車は自分の意志と体力さえあれば目的地につける、つまりやりたいことをかなえてくれるツールです。子育て中の親だけでなく、お年寄りや障がいのある方など生活的・身体的課題を抱えている方も自転車を通じて自律した生活が行える社会が私のめざすかたち。そのためにはあらゆる人が、クルマや自転車などのモビリティが安心して共存できる交通環境に加え、コミュニティを育める地域のあり方を考えていきたいと思っています。

「まちを見ていると、子どもを乗せて買い物袋を載せて懸命にペダルをこいでいるお母さんが
こんなにたくさんいる。そんな頑張っている人の力に少しでもなりたいと思った」
これが中原さんの原動力のすべてです。
自分が得た自由を独り占めせずにみんなに広げていきたい。その一念でふたごじてんしゃの
商品化にこぎつけ、現在もユーザー数を増やしていらっしゃいます。
お母さんの視点、マインドから生まれたこの自転車から、まちへ、地域へ、社会へと
視点を広げ、またきっと新たなチャレンジに向かわれるのだと思います。
中原さん、ありがとうございました。

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