2015.12.14 更新

自転車運動の効果を科学的アプローチで解明。
「日本人に役に立つ研究」にこだわり続ける、髙石教授の情熱。

名古屋市立大学大学院のキャンパスの一角、緑に囲まれた静かな場所に髙石教授の研究室があります。自転車にコンピュータを接続した実験室と書籍が並ぶ研究室がつながったこの場所で、髙石教授は自転車運動がもたらす健康効果について長年取り組んでこられました。
「自転車はラクすぎて運動にならない」というイメージを覆す研究結果を数多く発表され、世界的にも知名度の高い髙石教授。自転車にかけた研究者としての経緯と思いについて聞いてみました。

profile
profile

髙石 鉄雄(たかいし てつお)
1960年生まれ。1988年神戸大学大学院卒、1989年名古屋市立大学教養学部助手等を経て、現在は名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科生体制御情報系教授。京都大学博士。運動生理学とバイオメカニクスを使って、自転車運動が健康づくりにもたらす効果を研究している。著書は「自転車で健康になる」(中村博司氏共著)、「アクティブサイクリング 自転車に乗ろう」など。

電動アシスト自転車が爆発的に普及したら?
日本人の健康を第一に考えた研究姿勢を貫く。

Cyclingood
髙石先生は「日本人の役に立つ研究を行う」ことにこだわってこられたと聞いていますが、軽快車を研究で使用されるようになったきっかけは何だったのでしょうか?
髙石教授
私の研究は、1990年代後半から自転車競技の盛んな欧米で注目されました。
でも当時の日本では自転車は本当にマイナーだったので、学会で発表してもほとんど注目されない。そこで、「これからは日本人のためにもなるような研究をしよう」と考えました。
日本ではスポーツバイクよりも軽快車の方が圧倒的に多く利用されています。この状況をふまえ、軽快車の運動効果にも目を向け、「とにかく自転車は健康にいいから乗りましょう」というスタンスではなく自転車がもつ良いところ、悪いところを研究者の立場で公平に伝えることが自分の役割であると考え、それまでスポーツバイクに積んでいた高価な測定機器を軽快車に積み替えたのです。
Cyclingood
電動アシスト自転車が普及しはじめたときも、
先生は警鐘を鳴らされたのだとか。
髙石教授
私が電動アシスト自転車に関わる研究をはじめたのは90年代の終わり。
ちょうど京都議定書が採択されたころでした。
環境にやさしいということで自転車の道路環境整備の話題が上り、電動アシスト自転車はその数年前から普及しはじめていました。
日本人は基本的に、ラクな方に飛びつく人種です。
「これが爆発的に普及したら?」と危機感を感じ、電動アシスト自転車がもつメリット・デメリットを明らかにする研究に取り組んみました。

髙石教授
自転車では、自分の脚で立つ「自立」に必要な太ももの筋肉を頻繁に使います。
特に発進時、そして上り坂を走るときには大きな力が必要になります。
こういった筋力発揮の機会は、平地を歩いているだけでは絶対にありません。なのに電動アシスト自転車は、軽く踏み込んだだけで走り出せるためせっかくの筋力を鍛える機会を奪ってしまうわけです。
もったいない話です。
体力がないお年寄りや子どもを乗せて買い物に行く主婦にとっては発進の際のふらつきが転倒の原因にもなるため、アシスト機能が必要な場合もあります。
体力のある人はあまり頼りすぎず、せめて3回に1回は電源をオフにして利用するように意識してほしいですね。

平地をダラダラ歩くだけのウォーキングはダメ。
いつまでも健康でいるなら、脚力がつく負荷のある運動を。

Cyclingood
先生は日本の高齢社会をふまえて
生き生きとした人生を送るためには脚力をつけることが何よりも大事だとよく話されていますね。
髙石教授
クルマで移動したり、階段を避けてエスカレーターを利用することが日常的になっていると、間違いなく脚力は低下します。
脚力が無いと立ち上がれない、歩けないという悪循環になり、
ついには寝たきりに...。
若いうちは毎日のように大きな力を出さなくてもすぐに筋力が弱ることはありませんが、60歳を過ぎたあたりから、筋力、中でも脚力は急激に低下します。
Cyclingood
日本では特にお年寄りを中心に、ウォーキングを行っている人が多いですが...
髙石教授
はっきり言いますが、平地をダラダラと歩くだけのウォーキングは脚力の維持には役に立ちません。1万歩歩けばエネルギーはしっかりと使うので肥満は予防できると思いますが、脚力については維持することも難しいといえます。
生涯、自分の脚で自立した生活を送るには、階段を連続して上がったときのように「太ももの力を使っているな」「太ももが疲れて張ってきたな」と感じるような負荷がないとダメなんです。
たとえば、1日に平地を7,000歩歩くなら、2,000歩減らして坂道を500歩上がる、階段を100段上がる時間に使った方が脚力の維持にいい運動になります。
Cyclingood
歩くことで健康になると思っている方は多いと思いますが
坂道や階段は避けてしまうかもしれません。
髙石教授
筋力が著しく低下していく中高年者には特に日頃から「筋肉を減らさない工夫」を心がけてほしいですね。
自転車はその点、グッと踏み込む動作が階段を一段飛ばしで上がるのと同様の効果になります。
発進するとき、上り坂を走るときに最も筋力を発揮するので、そういう点では自転車は日常生活の中に大きな筋力発揮の場面を作り出し、脚力の維持や向上の機会を与えてくれます。
Cyclingood
では髙石先生は、自転車がもたらす健康効果を誰よりも
実感されているわけですから
もちろん日頃から自転車を運動ツールとして利用されているのですね。
髙石教授
いいえ(笑)。私が自転車に乗るのは家の軽快車で買い物に行くときくらい。
Cyclingood
そ、そんな?!
髙石教授
私は市民ランナーレベルですが、フルマラソンを今でも3時間40分で走りますので、起伏がほとんどない大学周辺で自転車に乗っても、まったく運動にならないんですよ。
Cyclingood
なるほど。もともと陸上の選手でいらっしゃいましたね。
失礼しました。
髙石教授
健康寿命を実現するには、いつまでも自分の力で立ち上がれる、歩けることがとても重要です。
転けてしまって寝たきりの老後になるのは誰もが避けたいはず。
人生を豊かにするために、高齢期を自分ごととして考え、早いうちから脚力を鍛えることを積極的に行ってほしいですね。
自転車は歩行よりも運動強度が高く、足腰を強くする運動になります。
自分の体力レベルに応じた負荷のあるトレーニングで健康を維持してもらいたいです。
Cyclingood
これからも日本人にとって役に立つ研究を期待しています。
どんな結果が発表されるのかとても楽しみです。
ありがとうございました。

髙石教授と(株)シマノによる研究データ2 サドルを高めに設定すると軽快車でも脚全体を動かす運動に!

「最も利用者の多い軽快車で運動効果を高めるには?」と研究を続けられた髙石教授。その答えのひとつがサドルの高さです。このグラフにあるように、サドルを高めに設定することで特にお尻と太ももの後ろ側の筋肉の活動量が高く、脚を大きく曲げ伸ばしする運動になることがわかりました。下半身の引き締めが期待される自転車運動、これは女性にうれしいデータですね。

どうすれば自転車でより筋力が使えるのかを考えてみました。

おすすめコンテンツ Life