散走が変える社会〜『函館のまちをタイムスリップ』❷

散走が変える社会〜『函館のまちをタイムスリップ』❷

散走が変える社会〜『函館のまちをタイムスリップ』❷

2024.06.26 更新

日常の中の小さな気づきや出合いを見つけに、散歩のようにゆったりと、気の向くままに自転車を走らせる「散走(さんそう)」。この散走を活用して、地域社会の課題解決をめざした「ソーシャル×散走」企画コンテストの第5回特別賞を受賞したのが、函館大学自転車部(当時)の部員による企画でした。受賞からおよそ2年が経った2024年4月、受賞のコースをみんなで散走する「実践の場」が設けられることに。この企画の提案者をはじめ、企画の実現をサポートされている関係者の皆さんにもお話を伺い、函館ならではの「タイムスリップ散走」を体験してきました。

What's
What's
「ソーシャル×散走」企画コンテスト
社会課題に取り組む手段のひとつとして散走を活用し、その地域の資源や魅力を含んだ散走企画を学生から募り、発表・共有する(株)シマノ主催のコンテスト。2024年で第7回を迎え、日本各地の大学・大学院からその地域に根ざしたオリジナリティ豊かな散走企画が寄せられています。

≪後編のお話≫

  1. 昭和の路地を通って、かわいいパン屋さんへ
  2. 冷たい雨を抜けて、地域の交流拠点、そしてランチ!
  3. 雨が上がると同時に生まれていた一体感

「CYCLRENOVATION HAKODATE~タイムスリップできるまち函館~」
の散走実施日。朝9時に函館駅に集合したメンバーは総勢8名。
企画者の平野さんをメインガイドに、「どうなん自転車倶楽部」の
スタッフがサポートを務めるようです。
私たち取材班も同行して函館を散走しますが、気になるのはこの曇天。どうなるんでしょう?

今回の参加者は、企画者の平野さんをはじめ、昨日お話しを伺った原さん、佐藤さん、「どうなん自転車倶楽部」の理事を務める剣持さん、北海道のフィールドアドバイザーの鎌鹿さん、隣町の北斗市観光協会の大沼さん、国土交通省北海道開発局の石垣さんと伊藤さんという何とも多彩なメンバー。自転車の調整をして自己紹介やコースを案内し、軽くストレッチをしてからいよいよスタートです。佐藤さんが昨夜「地元の人も知らないようなところも多く、函館観光巡りとしてもマニアックなルートですよ」と教えてくださっていたこともあり、どんなところに連れていってもらえるのかとワクワク。

走り始めて5分程度のところで止まったのが「菊水少路」とある路地。昭和の風情が残る路地を自転車を押しながら進みます。夜には飲食店のネオンが灯ってさらに雰囲気がありそう。ここを通過してしばらく走ると、海と函館山を望む海岸通りがまっすぐ続きます。天気が良ければ津軽半島が見えるそうで、残念過ぎる!

次に止まったのが、古民家をリノベーションした「気ままなパン屋・窯蔵」さん。すでに私たちは雨に濡れた状態でしたが、快く店内に入れてもらいました。小ぶりの独創的なパンが多く、お腹が減ってなくても食べたくなるかわいさ! 順番に並んで好きなパンを買い求め、特別にこの場で食べさせていただきました。パンだけでなくインテリアもかわいくて、センスの良さがうかがえます。

パン屋さんを出たあたりから、雨がいっそう強くなってきました。路面電車の線路のそばにはレトロな建築が並んでいますが、この雨で止まって見る余裕が無い...。 すると予定を変更して、「函館市地域交流まちづくりセンター」へ行くことに。大正時代の建物を活かし、現在は地域交流の拠点として使用されているこの中にあるのが、東北以北に現存する最も古いエレベーター。ガイドの方が説明してくださり、中もちらりと見せてもらいました。当時の技術にも驚きますがこのデザインもシンプルで美しい。ここで少し休憩を取ってから次の目的地、旧函館区公会堂へ。

できるだけ負荷の少ない坂道を選んでもらっていることもあって、さほどツラい思いをすることなく坂の上に建つ旧函館区公会堂に到着。ここは重要文化財に指定されている、明治43年に建てられた洋風建築の代表的建物。2021年に大規模保存修理を終えているだけあって、黄色とブルーの外壁が映えています。ドラマや映画のロケ地としてもよく使用されていることから、私たちがいる間にも観光客が続々と。本当はここで少し散策する予定でしたが、この雨なので断念。あー、ここから望む海と町並み見たかったなー。

函館湾に向かう美しい一本道で有名な八幡坂をシューーーんと下ってめざしたのは、待望のランチ! 濡れて冷えた身体を暖房で温めさせていただき感謝です。熱々のスープとランチをいただきながら、しばらく雑談タイム。

国土交通省北海道開発局の石垣さんと伊藤さんは「こんな風に函館のまちを走ったことがなかったので新鮮。観光と自転車を組み合わせた良い取り組みだと思います」
自転車愛好家でもあるフィールドアドバイザーの鎌鹿さんは「観光客に自転車を活用してもらうには、地元住民への周知も必要になりますね」
「どうなん自転車倶楽部」理事の剣持さんは「インバウンドの方にも函館西部のさまざまな魅力的なスポットを散走で案内したいです」
北斗市観光協会に勤める大沼さんは「現在、事務仕事の傍らサイクルガイドもしていますが、新函館北斗駅発着の散走コースづくりをしてきたので、今後コースを改良しながら散走を実施していきたいです」
とそれぞれ話されていたのが印象的でした。

お店を出ると雨も小降りとなり、「元町ガラス工房」さんでガラス工芸体験をしてから海岸近くへ。目の前に現れたのは巨大な船!地元で有名な造船所があり、造船の様子を間近で見られます。このスケール、さすが北海道!

ここから緑の島という函館港の緑地へ向かい、自転車を置いてしばらくゆったり過ごします。そう、すっかり雨が止んでようやく散策できる状況に。海を挟んで広がる函館のまちの様子をぼんやりと眺めながら、それぞれに会話を楽しみ、あとはゴールの駅前に向かうだけという最後の時間を惜しむように過ごしました。

スタート地点だった函館駅に到着し、みんなで感想を伝え合い、挨拶をして解散。「楽しかった」、「またやりたいね」、「雨じゃなければもっと良かったけどこれも散走」とそれぞれのコメントとともに、わずか半日の体験ながら不思議な一体感に包まれていました。
まちを一列になって走っているとき、前後に位置するガイドサポートの皆さんが常に声を掛け合って初めての散走体験の人にも不安の無いように働きかけていたことも、この一体感を育む大切な要素なのだと改めて実感。雨で霞む函館の景色もまたこの日ならではの思い出で、企画者の平野さんにも務めを終えた安堵感と達成感からか笑顔が見えました。

実はこの散走企画を実現する予定は、悪天候で何度も延期となり
この日が4回目の正直でした。
平野さんたちが考えたせっかくのアイデアを無駄にしないという強い思いがつながり、
たくさんの人のサポートによってようやく実現したのです。
便利な「足」となる自転車で、たくさんの観光客に函館を深く楽しんでもらいたい。
そして地元の人にも五感を使ってもっとこのまちを知ってほしい。
みんなの中にある北海道、そして道南、函館への愛情が、
散走というかたちで可視化されたように感じました。
取材撮影に協力いただいた皆さん、本当にありがとうございました。
今度はぜひ、天気の良い日にお会いしましょう!

天気が良いときの本来の景色が見たくて、後から送っていただいたのがこの写真。
左は函館の象徴となっているハリストス正教会、右はみんなでシューーーんと下った八幡坂です。
空の青と山の緑がまちを包んでくっきりときれい!

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