松本さんの「人力でまわす、自然の循環」❶

松本さんの「西伊豆古道再生プロジェクト」❶

松本さんの「西伊豆古道再生プロジェクト」❶

2022.10.19 更新

伊豆半島南部、松崎町。四方を海と山に囲まれたこの小さなまちは、約10年前から、再生した古道をマウンテンバイクで走るトレイルツアーが体験できる場所として注目を集めています。その仕掛け人が、(株)BASE TRES代表の松本さん。Cyclingoodでは2019年に一度取材をさせていただきましたが、今年に入って松本さんから「新しく海でのカヤックフィッシングをはじめたので、ぜひいらしてください」とお誘いがあり、西伊豆を再訪しました。今回は、松本さんが山から海へと活動のフィールドを広げられた理由に迫るインタビューと、山と海のアクティビティそれぞれの体験レポートを3本立てでお届けします。

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松本 潤一郎 (株)BASE TRES 代表取締役
17歳から海外をめぐり、オートバイによる南米大陸の旅を終えて、25歳で西伊豆に移住。2012年、古道の再生と里山林整備を同時に進める「西伊豆古道再生プロジェクト」を立ち上げ、2013年より「YAMABUSHI TRAIL TOUR」を開始。2017年「株式会社BASE TRES」を設立し、翌年には宿泊施設「LODGE MONDO -聞土(もんど)-」をオープン。さらに2021年には足こぎのカヤックで沖に出る「カヤックフィッシング」をスタートするなど、山と海が至近に交わる西伊豆ならではの魅力を発信し地域の活性化を支えている。

≪Part①のお話≫

  1. 世界がストップしたからこそ、好きなことに取り組む
  2. 山から海へ。コロナ禍がもたらした、思わぬ副産物
  3. 自然のつながりを伝えるカヤックフィッシング

前回の取材時には『山』に根ざして活動されていた松本さんが、
どうして『海』へと活動範囲を広げられたのだろう。
ロッジ・モンドで松本さんと再会し、さっそく疑問をぶつけてみると、
「実は前回取材していただいたあと、コロナ禍で客足が止まってしまって」とのお答え。

度重なる緊急事態宣言や県外移動の自粛要請を受けて、
宿泊施設もツアーも休業せざるを得なくなったのだそう。
ですがこの休業期間が、松本さんを忘れかけていた原点へと
立ち返らせてくれることになりました。

前回のお話(Report17)から見る

back number 西伊豆古道再生プロジェクト
Cyclingood
コロナ禍がはじまってすぐに休業されたのですか?
松本さん

ロッジ・モンドもトレイルツアーも、いわば観光業です。ここで感染を広げるわけにも、家族や仲間が感染するわけにもいきません。感染者が増えはじめた2020年の春に、宿もツアーも休業を決定しました。

Cyclingood
それでは、松本さんの仕事は完全にストップしてしまったのですね。
松本さん

そうですね。収入面では厳しいものがありましたが、お客さんがいない分、ロッジ・モンドのメンテナンスに取りかかれる時間になりました。

壁の色を変えたり、山や海で拾ってきたものを使って装飾したり。ウッドボイラーを導入して、山で切り出した薪を宿の熱源として利用するようにもなりました。

Cyclingood
前回の取材時には、このロッジ・モンドは未完成だと話されていましたが、確かに雰囲気が変わりましたね。
松本さん

何しろとても時間がありましたからね。先行きがどうなるかわかりませんでしたが、仕事が止まって時間がたっぷりあるこの状況を楽しんでやろうという気持ちでした。

Cyclingood
世界を旅してきた松本さんならではのポジティブな考え方ですね。
松本さん

ロッジ・モンドのメンテナンスだけでなく、趣味と食料の調達を兼ねて釣りでもしようと思い立ちました。海外を旅していたときはいつも釣り竿を持ち歩いて、水辺を見つけては釣りをしていたのです。テントを張って火を起こして、釣れた魚をその場で焼いて。貧乏旅行でしたが楽しい思い出です。

Cyclingood
思いがけない休業期間に、その気持ちを思い出されたのですね。
松本さん

はい。休業中、風の少ない日はカヤックで沖へ出ました。人力で進むカヤックは遊漁船と違ってエンジン音がせず、魚にストレスを与えないので、マダイやイサキが容易に釣れて驚きました。学校が休みの日は子どもたちも連れていったのですが、子どもでも案外うまく釣れるのです。予想以上の釣果があり、魚はもう買わなくてもいいと思えるほどでした。

目の前の海から必要なだけの魚を釣り、古道整備の際に切り出した薪を使って火を起こし、自分たちで調理して食卓を囲む。休業期間は、西伊豆の自然を目一杯享受する日々でした。

Cyclingood
コロナ禍によって、働き方や生き方を見つめ直した人も多いようです。松本さんも、そうした価値観の変化があったのでしょうか。
松本さん

海外を気ままに旅してきたころは、仕事ではなく自分が人生の主役だという実感がありました。ですが西伊豆に暮らしはじめて、仕事が軌道に乗るようになってから、いつの間にか仕事に追われるようになり、結果趣味や家族のための時間が削られていました。この休業期間に自然と向き合い家族と過ごしたことで、改めて自分が心地いいと感じられるペースで働き、暮らしていきたいと強く思うようになりました。

Cyclingood
本来めざしていた姿に立ち返ったのですね。
松本さん

そうですね。そして、海に出て気づいたことがもう一つありました。よく「山と海はつながっている」と言います。私自身は古道整備に携わっていてもほとんど意識したことがなかったのですが、釣りをしながら海の豊かさを感じたことで、山と海のつながりを実感することができました。

Cyclingood
どのように「山と海はつながっている」と感じたのでしょうか。
松本さん

まず、10年前から行ってきた古道整備によって、木を切った場所に光が射し込むようになり、ここ数年で下草が生えるようになっていました。そこに小動物が戻り、鳥が種を落として新たな木々が芽生え、古道周辺の自然環境が改善されています。山が豊かになれば、川から海へとその栄養分が運ばれます。カヤックで波に揺られながら山を眺めていると、これまで私がしてきた山の活動と、この海の豊かさが直結しているのだと実感できました。

Cyclingood
そうした体験が、カヤックフィッシングのツアー化につながるのですね。
松本さん

この自然とのつながりを、ぜひ多くの人に伝えたいと考え、昨年から海のアクティビティをスタートしました。トレイルツアーで山を楽しみ、カヤックフィッシングで海に出る。そして西伊豆の自然を生かして作ったロッジ・モンドに宿泊する。こうした活動を、私は「西伊豆をまわす」と呼んでいます。

整備した古道をマウンテンバイクで走るトレイルツアーに加えて、
昨年から足こぎのカヤックで沖へ出る
カヤックフィッシングをスタートさせた松本さん。
西伊豆の山と海、この自然の中に
どのような体験が待っているのでしょうか。
Part2・3では、2つのアクティビティを実際に
体験したレポートをお届けします。

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