散走が変える社会〜『函館のまちをタイムスリップ』❶

散走が変える社会〜『函館のまちをタイムスリップ』❶

散走が変える社会〜『函館のまちをタイムスリップ』❶

2024.06.19 更新

日常の中の小さな気づきや出合いを見つけに、散歩のようにゆったりと、気の向くままに自転車を走らせる「散走(さんそう)」。この散走を活用して、地域社会の課題解決をめざした「ソーシャル×散走」企画コンテストの第5回特別賞を受賞したのが、函館大学自転車部(当時)の部員による企画でした。受賞からおよそ2年が経った2024年4月、受賞のコースをみんなで散走する「実践の場」が設けられることに。この企画の提案者をはじめ、企画の実現をサポートされている関係者の皆さんにもお話を伺い、函館ならではの「タイムスリップ散走」を体験してきました。

What's
What's
「ソーシャル×散走」企画コンテスト
社会課題に取り組む手段のひとつとして散走を活用し、その地域の資源や魅力を含んだ散走企画を学生から募り、発表・共有する(株)シマノ主催のコンテスト。2024年で第7回を迎え、日本各地の大学・大学院からその地域に根ざしたオリジナリティ豊かな散走企画が寄せられています。

今回の「ソーシャル×散走」アイデア

第5回「ソーシャル×散走」企画コンテスト「特別賞」

「CYCLRENOVATION HAKODATE
~タイムスリップできるまち函館~」

函館大学 自転車部(2022年当時)

人口減少に伴う空き家の増加という課題の一方、古民家を現代のライフスタイルに合わせてリノベーションしているケースが増えているという「明るい」現状にも着目し、リノベーションされた古民家が最も多い西部地区での散走を企画。新旧の名所をコース化することで、観光客や地元の人に楽しめるよう函館を深掘りし、将来的な収益化による地域への還元をめざした。

  • 対象地域

    北海道函館市

  • 企画の
    ターゲット

    移住に関心のあるシニア世代、古民家リノベーションに興味のある若い世代

  • 地域の
    状況・課題

    人口減少・空き家の増加の一方、古民家などをリノベーションしてカフェなどをはじめる若年層が増加傾向

  • 注目した
    社会動向・課題

    歴史のある町並み、リノベーションされた古民家などを巡りながらタイムスリップの気分を味わい、観光客には移住を促し、地元の人には函館の現状を感じてもらうきっかけに。

≪前編のお話≫

  1. 「ソーシャル×散走」企画コンテストに参加した背景
  2. どのようにこのアイデアを考案した?
  3. 地域の課題と散走の可能性

散走実施前日にお集まりいただいたのは、企画の提案者である
当時函館大学自転車部部員の平野さんと顧問兼コーチだった長沼さん、
そして(一社)北海道開発技術センター地域政策研究所所長の原さん、佐藤さんの4名。
原さんと佐藤さんが所属する北海道開発技術センターの取り組みのひとつが
「シーニックバイウェイ北海道」で
道内のエリアごとにクルマで、自転車で、歩いて楽しめるコースやルートを設定するなど
地域に暮らす人が主体となって魅力ある地域、観光空間づくりを推進しています。
この取り組みから派生したのが北海道南部の「どうなん自転車倶楽部」。
今回の散走企画の実施を力強くサポートしたのは
原さん、佐藤さんを中心とした「どうなん自転車倶楽部」の皆さんだったようです。

Cyclingood
まず散走について、どのようなきっかけでお知りになったのでしょうか?
原さん

散走のようなピクニックライドを実施していたこともあり、2016年に(株)シマノ主催の地域交流会に参加しました。そこで各地の散走の取り組みを知り、担当者の方々との交流が生まれたのがはじまりです。「シーニックバイウェイ北海道」でもサイクルツーリズムに取り組んでいたことから、走ることをメインにするサイクリストとは異なる、自転車と地域の魅力を組み合わせた新しいカタチとして積極的に取り入れていきたいと思いました。

Cyclingood
では平野さんたちが「ソーシャル×散走」企画コンテストに参加されることになったのは...?
原さん
私が北海道のいろいろな大学に連絡を入れて、参加を促したのがきっかけですね。函館大学には、当時自転車部のコーチをしていた長沼さんに連絡しました。こういうのがあるよって。
長沼さん

そのコンテストの知らせを、平野くんと、足沢くんの部員2人に伝えました。すると足沢くんが特に観光や地域活性に興味があったことから「2人でやります」と即答。部の活動では主に制限時間内に200km、300kmもの長距離を走るブルベのトレーニングをしていたのですが、散走は自転車を使うといってもまったく内容が異なります。まずは函館が抱える課題のリサーチからスタートしました。

Cyclingood
平野さん、当時はどのように散走企画を立てていったのでしょう?
平野さん
地域課題をリサーチするとわかったのが、空き家が増えている現状でした。その一方で古民家をリノベーションしたおしゃれなカフェなども目立ってきていました。空き家のリノベーションを起点にコースを考えはじめたのですが、ご存知の通り函館はとても坂の多いまちです。壁みたいな坂もありますからね(笑)。こういう坂はツラいだろうとできるだけ避けようとしたのですが、これが結構難しくて。
長沼さん

実はテーマとなった函館の西部は平野くんが生まれ育ったまちで、彼はここを知り尽くしているんですよ。でもそれだけ平野くんにとってはコースとして新鮮に感じにくいので、足沢くんが「ここ面白いからコースに加えよう」と客観的に意見を出していました。

Cyclingood
長沼さんもアイデアの立案に関わっていらしたんですか?
長沼さん

はい、頻繁に3人で相談していました。自転車部といっても部員は2人だけなので、コーチと部員というよりも仲間のような関係で。
私自身ロードバイクで自転車にハマり、レースにも出ていた経験があります。その後知人を介して佐藤さんに出会い、今は「どうなん自転車倶楽部」のメンバーとなりました。いわばずっと自転車に関わってきているので、「ソーシャル×散走」企画コンテストへの参加も結構前のめりでしたね(笑)。

Cyclingood
今回は空き家という社会課題が企画の基盤になっていますが、函館の活性化に自転車活用は有効だと考えられているのでしょうか。
佐藤さん

函館中心部を除き、道南全域は公共交通が充実しているとはいえない状況のエリアです。新函館北斗駅から新幹線が延伸される予定もあり、観光客の増加に伴う駅からの移動がとても重要になります。電車やバスは簡単に増やせませんが、自転車なら手軽に導入でき、地域を自由に回遊してもらえます。スイスなど海外のサイクルツーリズムを参考にしながら、自転車による現実的なモビリティとしての活用を検討しています。

Cyclingood
では最後に、この平野さんたちのアイデアを今回実践しようとなったのはなぜでしょうか?
原さん
一番は、せっかくの若い人たちのアイデアをそのまま埋もれさせてしまうのはもったいないからです。私たちは「ソーシャル×散走」企画コンテストに参加している他の大学をつないだ北海道「散走」ミーティングを定期的に実施して、各アイデアの共有や意見交換を行っています。地域の人と一緒に、経済を活性化させる有効な手段として散走を取り込み、活かしていきたい。何より散走は、クルマでも徒歩でも行けなかったところに簡単に行ける、つまりこれまで観光資源ではなかったところが新しい観光資源になるというところに、可能性の高さを感じています。

平野さんたち若い人のアイデアを、
自転車に詳しい人、地域活性化に取り組む人などの「専門家」がタッグを組み、
サポートしながら、ようやく実施できることに。
ところがこの翌日である散走実施日の天気予報は雨マーク...。
みんなが待ち望んでいた
「CYCLRENOVATION HAKODATE~タイムスリップできるまち函館~」はどうなるのか?
次回をお楽しみに!

おすすめコンテンツ Life