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2017.09.29 更新
中学1年生がグループにわかれ、地域を走って町の観光資源を発掘する「自転車で地域再発見」という活動が
三重県多気郡多気町の勢和中学校で行われています。最初は戸惑いがちな様子だった生徒たちも
次第に町の魅力を「見つける」ことに意識が高まり、知らなかったさまざまな町の姿に出会った模様でした。
この活動は勢和中学校が独自に取り組んでいる「コミュニティ・スクール」の一環。活動の意図や背景などについて、
勢和中学校の先生と、企画運営を担当された(株)地域資源バンクNIUの西井さんにお話をお聞きしました。
勢和中学校で興味深い試みをされているらしい、とウワサを聞きつけ
Cyclingood取材班がうかがったのは、2016年11月の初旬でした。
冷たい空気が張り詰める雨上がりのこの日、
朝から体育館に中学1年生全員が集合。
先生方が見守る中、ここ多気町で自転車を活用した地域活性に尽力されている
地域資源バンクNIUの西井さんが前に立ってこの日の進行を説明しています。
「今日はこれから、グループに分かれてこの町を自分の自転車で走ってもらいます。
ただ走るだけではありませんよ。
この町の"宝"となる観光スポットを見つけてください。
できるだけたくさん見つけてくださいね」
生徒の皆さんは『ジュニア観光大使』として、グループごとに指定されたエリアを自転車でめぐり、観光客にお薦めしたいスポットを見つけて撮影し、マップに落とし込みます。
午後からはその集めた情報を大きな地図に書き込んで
最後にプレゼンテーションするという流れ。
『自転車で地域再発見』という名のこの活動に、
公立中学校がどうして取り組むことになったのでしょうか。
そして、なぜ自転車だったのでしょうか。
その理由をおたずねしたくて、後日勢和中学校を訪れ、
深田ひろみ教諭、石井順子教諭にお話をお聞きしました。
とても楽しそうに取り組んでいる生徒さんの姿が印象的でした。
この活動に至った経緯をお聞かせいただけますか?
石井先生
「コミュニティ・スクール」という活動の中のひとつです。
そもそもコミュニティ・スクールの導入を検討しはじめたのは
今から5年ほど前。ここ多気町は都心から離れていることもあり、
うちの生徒たちが社会慣れしていないという懸念がありました。
環境がまったく違いますね。
石井先生
雰囲気に圧倒されてしまうこともありまして。
そのため、この地域ならではの世界を知ってもらうこと、
コミュニケーション力や自信を得る経験が必要であると考え、
今のコミュニティ・スクールに至る活動の内容を詰めていきました。
石井先生
メンバーには教員をはじめ保護者など地域の代表者に入ってもらい、
計12~13名で「勢和の子どもをどう育てたいか」を協議し、
基本理念や活動の目的を定めていきました。
石井先生
「美しい自然を守り、地域に誇りをもち、さらに勢和を発展させようと
行動する子どもの育成」「生きる力(確かな学力)の養成」
「充実した郷土教育」の3つに設定。さらに
保護者・地域の皆さんと知恵を出し合い、学校運営に意見を反映させることで
協働しながら子どもたちの豊かな成長を支え
「地域とともにある学校づくり」を進める仕組みとして
コミュニティ・スクールを位置づけました。
保護者の方や地域の方と協働されることを重視されているのですね。
石井先生
「勢和中学校運営協議会」で協議・承認されて実行するのが主な流れです。
会長や校長、教員、地域の代表者も一緒になって
定期的に「なぜこれを行うのか」という議論を交わしているので
実施判断は比較的スムーズですね。
地域の方と一緒に取り組む理由については
多気町ならではの風土も影響していると思います。
石井先生
多気町ならではの協働意識の高さといいますか、
教育に関わりたい大人が多い風土があるため
皆さんとても積極的なんです。
面倒だと感じるイメージがありますが、
こちらではそのようなことが無いんですね。
石井先生
祖父母が近くに住んでいる世帯が多く、高齢者に馴染んでいること、
高齢者からいろいろなことを教わる経験をもっていることも
地域愛を育んでいるひとつの要因だと思います。
「自転車で地域再発見」だと思いますが、
この取り組みに至った経緯を教えていただけますか?
石井先生
地域資源バンクNIUさんから自転車を活用した地域調査について
ご提案いただいたのがきっかけです。
「自分たちが住んでいるところだけでなく、住んでいないところまで発見できる企画」
と提案いただいたことに関心を抱きました。
それについては問題はなかったのでしょうか。
石井先生
この地域の小学生は全員がバス通学で、
基本は学校と家の往復になります。
中学1年生になっても少し遠出することに慣れていないため、
この機会に自転車で町をめぐる体験ができることも魅力的でした。
この活動について評価されていることはありますか?
石井先生
このような企画は単に地域をめぐってマップを作って終わる
という単独の行事になりがちですが、
このストーリー設定によって、生徒が自分に与えられた
役割を認識して自主的に取り組めたように思います。
さらにこの後、町長や県知事へ活動を報告するまでに至ったことも
良い結果になったと思っています。
コミュニティ・スクールとして3年ほど活動を続けられていますが
その成果をどのように感じていらっしゃいますか。
石井先生
ボランティアとして積極的に参加していることもあり、
社会との接点が増え、地域の人と関わる機会が増えたことで、
生徒たちが自分の良さを気づき、怖気づかずに物事に取り組み、
この町を誇らしく思うように変化していると感じますね。
石井先生
結果もあります。
生徒が地域の活動に関わることで、
地域全体が元気になる、活性化することが
一番の目的なのでその目的を果たしつつあると思います。
コミュニティ・スクールの活動目的や背景について
丁寧にお話いただいた深田先生、石井先生ありがとうございました。
後編は勢和中学校に「自転車で地域再発見」を企画・提案し
運営も担当された地域資源バンクNIUの西井勢津子さんに
お話をうかがいます。