散走が変える社会〜『タイパから離れて地元愛を育む』❶

散走が変える社会〜『タイパから離れて地元愛を育む』❶

散走が変える社会〜『タイパから離れて地元愛を育む』❶

2024.04.10 更新

散走(さんそう)とは、日常の中の小さな気づきや出合いを見つけに、散歩のようにゆったりと、気の向くままに自転車を走らせる楽しみ方。個人や仲間と楽しむライフスタイルの一つですが、そんな散走を活用してより良い社会の形成に貢献することをめざし、学生からアイデアを募る取り組みが「ソーシャルx散走」企画コンテスト。今回は第6回で大賞を受賞した京都芸術大学大学院の久慈先生と、企画を立案した学生の江草さんにお話を伺い、アイデアが生まれた背景や、散走そして自転車への期待をお聞きしました。

What's
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「ソーシャル×散走」企画コンテスト
散走を通した社会課題に取り組む企画を学生から募り、発表・共有する(株)シマノ主催のコンテスト。2023年で第6回を迎え、日本各地の大学・大学院からオリジナリティ豊かな散走企画が寄せられています。

今回の「ソーシャル×散走」アイデア

第6回「ソーシャル×散走」企画コンテスト「大賞」

「ここにいルンです
宇治きりとり散走」

京都芸術大学 大学院 芸術研究科 芸術環境専攻 文化デザイン芸術教育領域

特に若い世代、親子に、アナログの使い捨てカメラでテーマに基づいたまちの風景を撮影しながら散走してもらう企画。タイパ主義と呼ばれる「失敗したくない」「無駄なことはしたくない」思考に対して、あえてタイパとは逆の遠回りをする散走やアナログカメラによる失敗も経験してもらい、最後にみんなが撮った「まちの写真」の展覧会を開催して、地元愛を育む機会にすることを提案した。

  • 対象地域

    京都府宇治市

  • 企画の
    ターゲット

    主に市外で勤務している若年層の宇治市民と親子

  • 地域の
    状況・課題

    宇治茶や寺社などを目的に外国人も訪れる観光地。人口減少が進む中、住民の就業者のうち半数以上が市外で勤務。

  • 注目した
    社会動向・課題

    特に若い世代に顕著な、時間効率を求める「タイパ(タイムパフォーマンス)主義」に着目。無駄や余計なことを嫌う傾向から、あえて「失敗する体験」の必要性を考えた。

≪前編のお話≫

  1. 本コンテストの進行はカリキュラムにぴったり
  2. 研究テーマに「自転車」を取り入れた理由
  3. 価値観も仕組みも変わる中で、散走で何ができるのか

Cyclingoodの取材班が向かったのは、
東京ミッドタウン・デザインハブで開催されていた「ゼミ展2024」の会場。
2018年から続くこのイベントは学生たちの作品展示を通じて、
社会をより良くするためのデザインの学びと可能性を知る場となっています。

今年のゼミ展にはデザインを専門とする9校10ゼミが参加され、その中のひとつが、
第6回「ソーシャル×散走」企画コンテストで大賞を受賞した
京都芸術大学大学院の皆さん。
京都芸術大学大学院では「クラス」と呼ぶいわゆるゼミを指導されている
久慈達也先生と、文化創生分野の大学院生、江草采音さんが
インタビューに応えてくださいました。

Cyclingood
各大学さんのブース展示がさまざまで、ユニークなデザインイベントですね。
久慈先生

私たちは初めての参加ですが、他大学や専門学校で取り組んでいる「デザイン」のカタチが一同に揃う良い企画ですね。グラフィックやプロダクト、インダストリアル、建築など、いろいろなジャンルのデザインが揃うのもおもしろい。学生たちにとってもいい刺激になります。

Cyclingood
久慈先生が担当されている「クラス」の研究テーマは、「自転車等を活用した地域文化デザイン」なのですね。
久慈先生

前期修士の課題としてこのテーマを設定し、シマノさんの「ソーシャル×散走」企画コンテストにも全クラス生6チームで参加しました。他の企業や自治体のコンペティションをリサーチしたところ、この「ソーシャル×散走」企画コンテストのスケジュールがカリキュラムの進行にぴったりだったので、クラスを挙げて参加することにしました。

Cyclingood
なぜ、研究テーマに「自転車」を設定されたのでしょうか?
久慈先生

いま、世の中が大きく変わってきています。交通面であればクルマ中心の社会となっておよそ60年になりますが、現在では電気自動車が台頭し、モビリティは多様化しています。世界的に気候変動が深刻化する中、エコな自転車に再び評価が高まっていて、実際、ヨーロッパでは自転車道路の整備が進むなど活用が広がっています。合わせて社会のあり方も大きく変化しています。日本では人口が減少し、人と人のつながり方が今まで通りにはならないと私は予測しています。

Cyclingood
社会が変革を迎える中で、自転車などのモビリティがもたらす価値も変わっていくのではないかと...?
久慈先生

そうです。人の価値観もひと昔から比べると随分違っていますよね。例えば結婚観なら現在はマッチングアプリによる成婚率が20%を占めるようになっているように意識の変化に基づいて仕組みも変わっています。このように死生観、人生観など、人の価値観の変化とともに、社会の仕組みもガラリと変わっていくでしょう。その社会の仕組みが変わるポイントが何かを、自転車などのモビリティを軸に学生たちに考えてほしいと考えました。

Cyclingood
変わっていく社会の仕組みと人のつながり方に、モビリティの可能性を掛け合わせたら何ができるのか、という研究アプローチなのですね。
久慈先生

はい、その通りです。大賞を受賞したチームは宇治市の地域特性と社会課題や動向に散走で何ができるかを考えたプランでしたが、ほかのチームのテーマはさまざまです。ぜひゆっくり展示をご覧になってください。

Cyclingood
ありがとうございます。ちなみに、先生は「散走」を以前よりご存知だったのでしょうか。
久慈先生

いえ、実は知らなくて、自転車についていろいろとリサーチして知りました。私は個人的にロードバイクを楽しんでいるのですが、自転車に乗ることそのものではなく、自転車を走らせて地域文化を深耕させたり、人のつながりを創出する散走の考え方は私たちの研究に適していると実感しました。

大きく変化する社会の中で、地域文化デザインに散走を掛け合わせたら
どんな価値を生み出すのか、という研究テーマに
散走の新しい可能性を感じた久慈先生のお話。
後編ではこの企画をどのように練り上げたのかを学生の江草さんにお話を聞いていきます。

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