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2022.04.13 更新
2017年に自転車活用推進法が施行され、各府省庁が自転車の活用推進に取り組む中、自転車が安全に走行できる環境整備が重要な課題となっています。今回は、こうした交通計画の施策立案や自転車活用推進に取り組まれている交通工学の研究者、吉田先生にお話を伺いました。先生は、道路整備といったハード面だけでなく、子どもの自転車教育や障がい者向け自転車の普及活動にも携わっているのだそう。自転車を取り巻く交通環境の現状、そして、交通環境の未来について、先生はどのように考えているのでしょうか。
福井県福井市育ち。2000年大阪市立大学大学院工学研究科後期博士課程修了(単位修得退学)、同大学助手を経て現職。博士(工学)。交通計画、交通工学を専門に、自転車交通や自転車利用環境評価の研究を行っている。大阪市都市計画局の施策立案研究員やロンドン大学在外研究員を歴任し、現在は土木学会の自転車政策研究小委員会で委員長を務め、国や自治体と恊働して自転車活用推進に取り組んでいる。
≪後編のお話≫
- クルマ中心から人中心へ。大阪市・御堂筋の取り組み
- 幼児期からの教育で、安全に乗れる人口の底上げを
- 障がいからも自由にする、自転車の可能性
ええ。象徴的なところでは、大阪のメインストリート御堂筋の自転車専用レーン整備です。現在は片側の側道のみですが、将来的には反対車線も整備し、さらに南北に拡張する予定。クルマ中心から人中心へ、空間の再編をめざしています。都市部での移動には本来、信号や渋滞で頻繁に減速・停止するクルマよりも、小回りの効く自転車が適していますからね。
路面店舗への荷降ろしやタクシーの乗り降りなど、クリアしなければならない課題は数多くあります。大勢の人が関わる場所ですから、各所の理解と協力が欠かせません。それでも、自転車や徒歩でこのエリアを楽しむ人が増えれば、より活気のある場所になるのではないかと期待しています。
ふたつあります。まずひとつは、子ども自転車教育の普及です。例えば、「走行中に片手や両手を離してハンドサインを出してください」と言われて、すぐにできますか?
教室というと「教えないと!」と思いがちですが、ここではシャボン玉を飛ばして子どもたちとハイタッチするのが大人の仕事。楽しいことは子どもは勝手に覚えますから。自転車の乗り方は、脳ではなく身体で覚える「手続き記憶」として記憶されるので、例えその後10年乗らなくても身体が覚えているそうです。幼児期に正しい乗り方を覚えてもらうことで、正しく安全に自転車に乗れる人を増やしていきたいですね。
自転車によって、障がいから人の移動を自由にすること、でしょうか。日本のある養護学校で、デンマーク式の自転車教育を取り入れたことがあります。知的障がいのある子どもたちは、最初は自転車を怖がったり、うまく進めなかったり。それでも1年かけてだんだんと上達して、保護者でさえも「この子が自転車に乗れるなんて」と驚くほどの成長を見せてくれました。
また、身体の障がいに対しても、手で動かすハンドサイクルやペダルつき車椅子など、新たなモビリティの開発が進んでいます。私も試乗したことがありますが、これがなかなかおもしろい。三輪だったり五輪だったり、カタチも操作方法も障がいのタイプに適用できるように工夫されています。開発や普及に尽力する仲間がいるので、私も積極的にサポートしています。
その通り。身近なところでは、電動アシスト付き自転車の機能向上も進んでいます。自転車はまだ多くの可能性を秘めているでしょう。
自転車は、自由そのものだと感じます。公共交通機関は、利用するための時間や場所がある程度限定されますが、自転車は時間も行き先も、ルートやスピードだって自分次第。この自由な移動が自己実現を叶え、心身の健康や社会との関わりをもたらしてくれます。
誰もが安全に走れる自転車環境。
この言葉の中には、国籍も年齢も、心身の障がいも飛び越えて、
今を生きる全員が含まれています。
年齢を重ねて、いつか身体が衰えても、吉田先生のめざす自転車環境が実現されれば、
人はいつまでも自由でいられる。そんな未来への勇気をいただくことができました。