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2021.09.22 更新
グラフィックデザイナーでありながらベルギー発の自転車教育法「ウィーラースクール」を継承し、子ども向けの自転車教室を実践しているブラッキー中島さん。京都府の美山町に移住してからは、数々の自転車関連イベントを企画・参画されていることをご存知でしょうか。しかもそのフィールドは今や自転車だけに留まらず、米づくりや里山保全にも広がっています。自転車、教育、地域活性、農地保全などのブラッキーさんを取り巻くキーワードがどんなふうにつながっていくのかを確かめるために、活動拠点である美山町のCYCLE SEEDSを訪問しました。
1963年生まれ。京都市出身。「一人でも多くの子どもに自転車の楽しみを」を合い言葉に全国のサイクリストの有志が集まったネットワーク「ウィーラースクールジャパン」の代表。自転車をきっかけに京都の美山に惚れ込み、古民家に移住して「美山自転車の聖地プロジェクト」や農地保全活動「たねもみプロジェクト」を実践するなど自転車を利用した地域活性化に取り組んでいる。グラフィックデザインオフィスフェイムイマジネーション代表。兼業農家。2017年には「美山自転車の聖地プロジェクト」で、京の公共人材大賞最優秀賞を受賞。
≪後編のお話≫
- サイクリストが米づくり!?その狙いとは?
- スピードを上げて、オンリーな自転車イベントを企画・実践。
- 環境や文化を未来につなぐ、新たなスタート。
詳しく教えていただけますか。
「サイクリストが守る、日本の原風景」をキャッチフレーズに、ここに来たサイクリストに美山の価値を知り、もっと好きになってもらい、まちとの深い関係を築くことをめざしたプロジェクトです。結果的に移住や定住につながり、地域の活性化や里山環境の維持に貢献することも目標。この一環としてサイクリスト自身に無農薬有機栽培での米づくりを行ってもらい、この環境の素晴らしさを体感してもらうよう働きかけました。
サイクリストが地方に赴くと、どこかで「来てあげている」という気持ちがあるような気がしていました。でもそれじゃいつかサイクリストが地方を走る機会を失うことになるし、本来的な地域振興にはなりません。サイクリストが感謝の気持ちを表すことが大事だと考え、米づくりを通じて互いの距離を縮めていきました。
京都美山サイクルグリーンツアーの開始など、
さらに自転車と美山との関係づくりに取り組まれていますね。
ええ、美山サイクルロードレースは参加者を800名から1300名に増やし、ファミリーにも参加しやすい内容に変えました。自転車のインチ別の階級にした子ども向けのレースは、年齢で縛らずに飛び級も可能な無差別級。子どもが自分で出場したい階級を選び、年上の子とも競えるように工夫しました。子どもの勝ち負けの世界に大人が介入しないことで、面白いとか悔しいとかやりきったとか、そういう自発的な感情を呼び起こす場にしたいと考えたからです。
はい、もう8年くらいになりますね。サイクリストによる米づくりの取り組みが発展して、現在はサイクリストに限定せず年間で延べ1,500人ほどが参加する一大プロジェクトになりました。試行錯誤を続けてきましたが、今はグループごとに担当する田んぼを決め、自分たちで継続して生育する、つまりシーズン中は10回程度ここに来て米づくりをしてもらっています。この方法だとみんな自分たちでなんとかしよう、いい米にしようと考えて熱が入るんですよね。めきめきと収穫量が増えて無農薬の質のいいお米ができるようになりました。
いま私が描いているのは、この素晴らしい美山の環境を未来に残すことです。もちろん、私一人でできることではなく、住民の皆さんにも同じ思いで進んでもらわなくてはなりません。そこで最近立ち上げたのが「森の教育プロジェクト」。森や川などの美しい自然、里山文化、地域コミュニティなど美山の資産を活かした教育の場の提供が中心です。子どもの成長には、田舎で遊んで学ぶのが一番。いろんな年齢の子どもたちが交流して体験を共にすることで得られるものは計り知れません。多様な挑戦の選択肢があるのは田舎ならではであり、いつか「子ども時代は田舎で学ぶ」ことが当たり前の世の中になればと思っています。
んー。なんでしょうね。デザインの仕事も、ウィーラースクールの運営も、ずっと誰かに喜んでもらえることが支えになっていたのかなと思います。ひとつ行動を起こしたら、次の課題や目標が見えて、またやってみて...ということが続いてきたのかな。それとやはり子どもって未来ですから、私が関わることで、この子がきちんと生きる何かのきっかけになればという思いもあります。そのきちんと生きるって、自分で選び取っていくということでしょう。答えを教えるんじゃなくて、自分で選択して失敗してまた努力できる機会を提供することが、未来のために大人が、私ができることなのかなと思っています。
自転車を核に、美山に集客する仕組みをつくり続けてきたブラッキーさん。
すべてを一過性のものにせず、いかに関わりを持続させ、
お互いにとって価値を生み出すものにするかという信念が、
ずっと根っこにあるのだと感じました。
子どもへの自転車教育からまちの活性化、そしてまちの未来へ。
ブラッキーさんの取り組みに、ブレーキがかかるのはまだまだ先のことのようです。