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2021.07.21 更新
温泉地として知られる東伊豆町稲取。静岡県賀茂郡の伊豆半島東岸に位置する小さな港町で、空き家を改修し、人が集まる拠点をつくりながら地域活性に取り組んでいるのが、合同会社so-anの荒武さん。建築を学んでいた大学院時代、仲間と共に『空き家改修プロジェクト』として訪れたことがきっかけで稲取の活性化に取り組むことになったのだそう。横浜生まれ横浜育ちの荒武さんがなぜ稲取に移り住むことになったのか、このまちの魅力や今後の展望についてお聞きしました。
合同会社 so-an 代表社員/NPO法人ローカルデザインネットワーク理事長
芝浦工業大学 大学院の仲間と『空き家改修プロジェクト』を立ち上げ、完成したコミュニティスペース『ダイロクキッチン』を運営するため2016年に東伊豆町地域おこし協力隊として稲取に移住。同年空き家改修のメンバーと共に『NPO法人ローカルデザインネットワーク』を設立。2020年には現役の地域おこし協力隊員と共に『合同会社so-an』を設立し、宿泊施設『湊庵 錆御納戸/so-an sabionand』を運営しながら、使われなくなった空き家問題の解決や観光客・移住者の誘致など、東伊豆町稲取エリアの課題解決に取り組んでいる。
≪後編のお話≫
- 観光地・稲取の課題
- 観光×自転車の可能性
- 地元の人にこそ、稲取の、自転車の魅力を
- 大切にしているのは「なんか楽しそう」
見えてくるのでは?
そうですね。稲取の人々の暮らしは古くから土地の多くを占める山林からの山の幸と、水揚げされるキンメダイなどの海の幸に恵まれた一次産業で成り立っていて、まちの南側には現在の地域経済を支えている温泉街があります。温泉街には毎年多くの方が訪れるのですが、旅館の中で旅のアクティビティが全て完結してしまうため観光客の回遊が少なく、まち全体の活性につながりづらいという課題が見えてきました。
それと同時に気付いたのが、稲取を楽しむには徒歩よりもクルマよりも、自転車だということです。稲取は土地の起伏に沿ってまち並みが形成されているため、路地が迷路のように入り組んでいて、クルマだと小回りが効かないのです。徒歩では坂が多くて大変ですが、住宅が密集する海岸付近は自転車で回れば15分ほど。電動アシスト自転車があれば路地も坂もぐんぐん進んで行けます。
ありがたいことに大賞をいただきました。賞金はそのまま電動アシスト自転車を購入する資金として観光協会に譲渡し、2020年からレンタサイクル事業がはじまっています。
観光協会とは別で、私が運営する施設でも電動アシスト自転車の貸し出しをはじめました。施設の利用者に自転車を使ってもらうことで、稲取の自転車人口を増やしたいと考えています。
坂の多いこの地域では、昔からクルマ移動に慣れている人が多く、自転車がそもそも移動手段の選択肢に入っていないのです。だからこそ、観光やコワーキングオフィスの利用で稲取に来た方にはどんどん自転車に乗ってほしい。漁港や路地をスイスイ走ってもらうことで、その姿を見た地元の方に稲取の魅力を再確認していただき、「自転車もいいかも」と感じていただけるのではないかと思っています。
私はよく自転車でまちを巡りますが、海辺まで行って潮風を感じたり、目的もなくぼんやり走らせたりするだけでもリフレッシュできます。最近ようやく地元の方に、「自転車に乗っている人を見たけど、荒武のとこのお客さんか?」と聞かれるようになってきました。
そうですね。稲取との出合いから約5年。拠点はコミュニティスペース『ダイロクキッチン』、コワーキングオフィス『EAST DOCK』、宿泊施設『湊庵 錆御納戸/so-an sabionand』の3つに増えました。実はいま改修中の空き家もあるので、これからもう少し拠点を増やして、まずは稲取を訪れる人を増やしたいですね。
空き家改修メンバーと運営しているNPO法人の今後の目標は、稲取のような場所を全国に展開すること。そこで、私はより稲取に特化した活動に力を入れるため、現役の『地域おこし協力隊』と共に合同会社を立ち上げました。
何でしょうね。稲取のために!とか、ここに一生を捧げる!という気概は、実はそこまでないのかも知れません。暮らすうちにたくさんの縁ができたこともありますし、何より自分が楽しいから続けているのだと思います。もともと建築の道を志したのも、「建物をつくりたい」のではなく、人が暮らすまちをつくることに興味があったからです。だから、いまの取り組みは自分がやりたかったことそのものです。
本当に、大変なことだらけですね。「道路を歩行者天国にしたい」と役場に相談したら、「やったことがない」と言われたり、何事もやり方や伝え方から考えないといけなかったり。『雛フェス』を第2回、3回と続けたかったけれど、コロナ禍では難しく...。楽しみにしていた皆さんがしょんぼりしているのを見ると、はやく他のイベントを企画しなくてはと焦ります。
でも、私がしんどそうにしていたらきっと周囲にも伝わってしまうので、まずは自分自身が楽しむことに決めています。あまり気負わず、「なんか荒武楽しそう」と思ってもらうことから、稲取を盛り上げていきたいですね。
取材のあと、Cyclingood取材班も電動アシスト自転車をお借りして、
荒武さんに稲取を案内していただくことに。
お聞きしたとおり、路地を走ると階段にちょこんと腰かける
おばあちゃんたちの井戸端会議に遭遇。
「気ぃつけてね〜」と声をかけてくださる皆さんに手を振りながら、
荒武さんが"一目惚れ"した稲取の魅力がわかったような気がしました。
路地の奥に佇む神社。漁船がまだ帰っていない昼間の漁港。坂から見下ろす稲取のまち。
外から来た荒武さんだからこそ、地元の人が当たり前に過ごす景色が魅力的に映り、
それを自転車でつなぐという発想が生まれたのでしょう。
「私も久しぶりの散走だけど、やっぱり気持ちいいですね」と
終始笑顔の荒武さんは確かに気負わず「なんか楽しそう」で、
稲取はこれからもっとおもしろくなりそう!と期待が高まりました。