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2018.05.25 更新
2006年から自転車によるひとり旅をされている西川さん。すでに36カ国、90,000kmを走破し、
2012年からは世界と日本の子どもたちをビデオ通話でつなぐ「ちきゅうの教科書」という課外授業を
実践されています。自転車で世界をめぐることは、想像以上に過酷な状況に見舞われることもあり、
継続することも決してたやすくないはず。それでも世界をめざし、子どもの教育に関わる取り組みを
続けられているその思いや背景を、じっくりとお聞きしました。
≪後編のお話≫
- 「ちきゅうの教科書」のはじまり。
- その日、そのときの、偶然性が大切。
- 思いもよらないピースがつながる人生の面白さを。
- 「今」の気持ちに素直に、日本旅へ。
最初は「あ、西川さんだ!」という反応でしたが、世界のさまざまな町の風景にも関心を示してくれるようになりました。
「町の人に話しかけてみよう」と質問してもらったら、子どもが聞くことって「横断歩道はあるのですか?」「宿題はありますか?」という身近なことばかり。
話が行き詰ったときに、たまたま日本の子どもがピカチューを見せたらそれで一気に打ち解けて盛り上がったこともありましたね。
その日、そのとき、居合わせた人との偶然性を大切にしています。
それはそれで良いとされているのですね。
大人が上手くいくように仕向けることに意味がないと思っていて、子どもたちの中から飛び出してくる「跳ねるようなもの」を感じられる場にしたいと思っています。
プレゼンテーションを企画したこともありましたが、「これではコミュニケーションにならない」と止めました。
もちろん、このような活動に即効性があるわけではないので、
この経験によって目に見える変化が無い子どももたくさんいます。
それはそれでいいのです。
僕はよく、「人生はジグゾーパズルのようなもの」と子どもたちに話します。何か行動を起こすとピースをひとつ手に入れ、真っ白なパズルに置いていく。このピースは最初、どこにはまるものかはわかりません。
ところが手に入れたピースが増えていくごとに、思いもよらないふたつのピースがつながって形になることがあります。
ピースが増えて形になっていくのが人生の面白さ。
どんな絵がそこに表れるのかは、その人の生き方次第です。
「自分とは何か」を見つける自己の獲得が人生の目的だと思っています。僕は世界を旅することで、世界のさまざまな人の暮らしに入り込ませてもらい、自分自身を客観視することができるようになりました。
知らない世界を経験することで、物の見方が広がり、受け入れる器も大きくなります。なので子どもたちに、まずは知らない世界に出会えるきっかけとして、課外授業を楽しんでほしいと思っています。
今の教育について問題意識を抱いていらっしゃるからなのでしょうか?
問題意識というほどではありませんが、最近の子どものなりたい仕事の上位にYouTuberが挙がっていますよね。
「人を楽しませる仕事をしたい」と思っているならいいのですが、単に「ラクして稼げそう」というイメージが強いのであれば、どうなのかなと思うことはあります。
今の子どもには早くからキャリア教育が行われ、職業意識をもち、その目標に向かっていち早く効率的にスキルや知識を身につけることが求められています。失敗を避けて成功をめざす近道が良しとされます。
親の思いを背負うケースもあるでしょう。
こうしたさまざまなプレッシャーが今の子どもにのしかかっているような気がします。
10年後さえ予想がつかない世の中になっているにも関わらず、
子どもには自分の未来を描いて実現に向かいなさいと大人は言う。
そこに正直、矛盾を感じています。
インスタントな答えを求めず、失敗しても構わないから今やりたいことに夢中になってほしい。そんな「今」を積み重ねた先にある、自分を生かせる生き方を見つけてほしい。だからこそ、僕なりの「今」を伝えることで、こんな生き方もあることを知ってもらいたいのです。
僕が一番大切にしたい生き方です。
今回は海外ではなく、日本を走ります。
去年、メキシコからコロンビアを走りましたが、
出発前にまったく気分が乗らなくて。
よくよく考えてみると、この旅が自分にとってやらなくてはいけないものになってしまっていることに気づきました。
このままではダメだと、じゃあ今自分がやりたいことは何かを考えたら自然と「日本を旅したい」という気持ちが湧き上がってきました。
行き先は決めていません。1杯ごとに豆を挽いて作るコーヒーの準備をして、出会った人に僕がコーヒーを淹れて差し上げ、一眼レフで撮影した写真を印刷してお渡しします。
豆を挽くところから飲んでいただくまで、およそ10分。
人生の10分を僕と共有してもらい、
コーヒーと写真に対する費用をいただくのか、
何かモノをいただくのか、タダなのか、
それはその方に決めてもらえばいいと思っています。
これは今の社会に「思いの交換」はあるのか?という僕なりの実験。
どんな人と出会い、どんな結論が出てくるのかまったく未知数ですがとてもワクワクしています。
楽しみにしています。
今や多くの小・中学校から「ちきゅうの教科書」の依頼を受け、
講演会などにも精力的に取り組まれている西川さん。
何が起こるかわからない旅先での偶然性が、
何かを感じ、考えるきっかけとなり、その積み重ねが
自分の生き方や価値観を育む「栄養」となって
西川さんの中に確かに蓄えられている。そんな印象を受けました。
安易に答えを求める生き方よりも、
上手くいかないこともある生き方を知ってほしい。
きっとその方が、どんな時代になっても社会にしっかり立てる力になる。
そんな西川さんの思いが、多くの子どもたちの心を動かしているのだと思います。
これからのますますのご活躍を期待しています!