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ひと息からポジティブに。呼吸×運動で前を向くココロ。 ➋
スマホが気になってつい見てしまう。なんだかいつもストレスを抱えがち。本番になると実力を出しきれない。ひとつでも心当たりがあるなら、それは呼吸の深さに原因があるかもしれません。
呼吸は酸素を体内に取り込むだけでなく、メンタルにも深く関わっているという事実を、運動と呼吸の関係を研究されている髙橋先生に教えていただきます。
ぜひ、自分の呼吸を意識しながらお読みください。
2022.12.21 更新
東京有明医療大学 保健医療学部
髙橋 康輝 准教授
専門は健康・スポーツ科学。運動と呼吸・循環機能と心の関係などの研究。筑波大学科学技術振興研究員、倉敷芸術科学大学健康科学科助教を経て、2009年より東京有明医療大学准教授。
後編のお話
- ① 良い呼吸をつくる、リズミカルな運動
- ② 「吸う」よりも「吐く」からスタート!
- ③ あなたの呼吸筋はまだ力を秘めている!
前編では、深くゆっくりと行う呼吸が前向きなメンタルをつくると教えていただきました。ここからは、具体的に呼吸を「深くゆっくり」に改善する方法を伺います。
はい。前提として、「深くゆっくり」が大切なのは安静時の呼吸です。運動をするとハァハァと息が上がりますよね。運動時は身体が多くの酸素を求め、体内の二酸化炭素を体外に排出したい状態であるため、自然に呼吸が深くなっているので問題ありません。
運動時は、速くても深い呼吸ができているのですね。
その通りです。呼吸筋をしっかり使えているので、安静時の呼吸を改善するためには運動を行うことが効果的です。歩いても走ってもいいので、有酸素運動であればしっかり呼吸筋を動かすことができます。
自転車でも、呼吸筋にアプローチすることができるのですね。
では、運動をするときのポイントはありますか?
では、運動をするときのポイントはありますか?
呼吸数やリズムは人によってまったく異なるのですが、基本的には一定のリズムで行うことで換気効率が良くなります。
自転車なら、ペダリングのリズムに合わせると良さそうです!
ペダリング1回転で一呼吸、2回転で一呼吸など、自分のリズムで行うことが重要です。スースーハッハッとリズミカルに行うと呼吸が乱れにくく、運動を長く続けられますよ。
よく「2回吸って2回吐く」と聞きますが、
なぜ2回ずつが効果的なのですか?
なぜ2回ずつが効果的なのですか?
それは、2段階に分けることで、より深い呼吸ができるからです。そしてもうひとつ大切なのは、呼吸は「まず吐くこと」。呼吸の乱れは呼吸数の増加、つまり「吸いすぎ」によって起こるので、まずはしっかり吐ききることで深い呼吸をスタートさせましょう。
新しい空気を入れるために、まずは出し切る!
普段から意識できそうです。
普段から意識できそうです。
リズミカルに行うのと同時に、運動で負荷をかけることも呼吸には有効です。自転車なら坂道にトライするなどでしょうか。ここまで話を聞いて、「自分は呼吸が浅いかもしれない」と思われたかもしれませんが、みなさんの呼吸筋は普段使われていないだけで、しっかり呼吸する力を秘めています。
今まさに、呼吸が浅いかも...、と思っていました。
呼吸筋は筋肉ですから、鍛えることができますよ。運動強度を上げることで呼吸筋の可動域が広がり、一度の呼吸で気道と肺に出入りするガス量「一回換気量」が増加します。アコーディオンの蛇腹のように、呼吸筋を目一杯広げてあげましょう。
運動は息があがる程度が効果的なのですね。ただ、息があがるとしんどくなって運動を長く続けることは難しそうです...。
確かに、呼吸が乱れると運動をストップしてしまいがちですね。実は、運動時には身体的な限界よりも呼吸の限界のほうが早く訪れやすいようです。まだ運動を続ける力は残っているのに、呼吸が乱れることで不安感が生まれ、さらに呼吸が乱れて息が続かなくなってしまうのです。
呼吸の乱れによって「もうムリ!」と思ってしまう、ということですね。
例えば駅伝やマラソンなどの競技では、前方を走っている走者が後方走者のじわじわと追い上げてくる足音や息づかいに不安を感じると、呼吸が乱れてしまい、スパートをかけられたときに対応できない...、ということがあるようです。アスリートでも、みなさんが行う運動でも、呼吸が続かなくなってきたときこそあえて深く吐ききり、もう一度吸ってみましょう。換気量が増えると、もうひと頑張りすることができます。
呼吸と感情は、それほど密接につながっているのですね。
そうですね。その点、自転車は心地良さも感じられるので、呼吸とメンタル、双方向で良い影響がありそうですね。
自転車の心地良さは、多くの人が実感していると感じます。
ほかには、運動時に限りませんが、鼻から吸って口から吐くのが良いと言われます。口呼吸は口内の乾燥などデメリットが多いため、吸うときは鼻から行うほうが良いでしょう。嗅覚のセンサーも働いて、息を吸う以外にも脳に良い刺激があると考えられます。
最近はマスク生活が続いているためか、口呼吸の人が増えているとも言われていますね。
息苦しいと感じて、つい換気量の多い口呼吸をしてしまうのかもしれません。この息苦しさも、口元が覆われていることによる心理的な要因が大きいのではないでしょうか。マスク着用によって酸素を吸える量が減るわけではないので、息苦しいと感じたらスーッと長く吐いてみることも有効です。
運動以外に、呼吸筋を鍛える方法はありますか?
ストレッチも効果的です。ゆっくりと呼吸しながら、首を左右に傾けたり、手を後ろに組んで胸を開いたり、伸びをしたり。姿勢が良くなると、それだけで空気が入る場所が広くなります。
自転車運動は前傾姿勢になるので、自転車に乗る前や後にストレッチを取り入れるのも良さそうです。
そうですね。日常の中でできることから取り入れてみてください。この記事を読んでいる方は、きっと自分の呼吸に意識を向けられたと思います。そんなふうに、例え数分でも毎日少しずつ深い呼吸を意識してみることから、呼吸は改善することができます。
吸って吐く。
ただそれだけの単純な働きが、心に大きな影響を与えている。
呼吸からポジティブになれるという事実は、
ストレスの多い時代を生きていくための
お守りになりそうです。
髙橋先生、ありがとうございました。
ただそれだけの単純な働きが、心に大きな影響を与えている。
呼吸からポジティブになれるという事実は、
ストレスの多い時代を生きていくための
お守りになりそうです。
髙橋先生、ありがとうございました。