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いまも、これからも、うれしい。脚筋力をつけるといいコト。 ➊
脚筋力をつけると、寝たきりや要介護リスクが高まるロコモティブシンドロームになりにくいということは皆さんご存知だと思います。
ですが、将来的なリスクだけでなく、脚筋力をつけることでたくさんの「いまうれしい」好影響が起こるのをご存知でしょうか。
今回は、NHKの『みんなで筋肉体操』でお馴染みの谷本道哉准教授に、脚筋力をつけるメリット、そして自転車運動と筋力アップの関係性を伺いました。
自転車ひとこぎからはじまるいろいろな「いいコト」をお話しいただきます。
2022.08.31 更新
順天堂大学 スポーツ健康科学部
谷本 道哉 先任准教授
東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。専門は筋生理学、身体運動科学。著書に「スポーツ科学の教科書」(岩波書店)など多数。近年はNHK「みんなで筋肉体操」「筋肉アワー」「おはよう日本」などでも運動の効果をわかりやすく解説している。
前編のお話
- ① 血液をめぐらせるカギは脚筋力!?
- ② 痩せやすい身体は脚からつくる
- ③ 時間を巻き戻せる、筋肉の特性
まずは脚筋力の役割を教えていただけますか?
はい。根本的な話ですが、私たちが歩けるのは脚筋力があるからこそ。歩くにも座るにも、脚筋力が使われています。そして、こうした動作に使われるだけでないいろいろな健康効果につながることをお話ししましょう。
脚を動かすと血流が促進され、健康のために重要な心肺機能が高まり、高血圧や動脈硬化が改善されるなどの効果が期待できます。
脚を動かすと血流が促進され、健康のために重要な心肺機能が高まり、高血圧や動脈硬化が改善されるなどの効果が期待できます。
先生は逞しい逆三角形の上半身が印象的ですが、
健康に生きるためには、なぜ脚筋力が重要なのですか?
健康に生きるためには、なぜ脚筋力が重要なのですか?
そうですね。まず、「ふくらはぎは第二の心臓」と言われますが、実は心臓の力だけでは血液を送り出すことはできても、全身から心臓ヘは血液を戻しにくいようです。その理由は、血液は重力によって下半身に滞ってしまうため。
この血液を心臓まで戻す助けをするのが、ふくらはぎの筋肉が弛緩・収縮する「筋ポンプ作用」。心臓とふくらはぎ、両方の力によって血液をスムーズに循環させることができます。めぐりがよくなることで、多くの女性が悩むむくみも解消されます。
この血液を心臓まで戻す助けをするのが、ふくらはぎの筋肉が弛緩・収縮する「筋ポンプ作用」。心臓とふくらはぎ、両方の力によって血液をスムーズに循環させることができます。めぐりがよくなることで、多くの女性が悩むむくみも解消されます。
血液の循環には脚の力も大きく関わっているのですね。
血流に関連してもう一つ。運動をすると血流がよくなることは皆さん実感されたことがあると思いますが、血圧の急上昇は血管に負荷がかかり動脈硬化などの原因になります。
筋力トレーニングなど筋肉に瞬時に力を入れる運動は、筋力アップには効果的なのですが、血管への負担は大きくなってしまうのです。
筋力トレーニングなど筋肉に瞬時に力を入れる運動は、筋力アップには効果的なのですが、血管への負担は大きくなってしまうのです。
では、血管に負担の少ない運動はありますか?
ウォーキングやランニング、水中運動、サイクリングなどが挙げられます。こうした脚で行う持久的な運動はエネルギーの消費が大きく、動脈硬化の改善、血圧の低下が期待できます。
脚を動かす持久運動は、
血圧の急上昇を抑え、疾患予防にもつながるのですね。
血圧の急上昇を抑え、疾患予防にもつながるのですね。
脚筋力をつけることで得られるメリットは将来的な疾患予防だけではありません。歩く・座る・姿勢を支えるといったほとんどの日常動作には脚が関わっています。脚筋力をつけることで体力が向上し、疲れにくくタフな身体になります。
脚筋力はまさに身体の土台なのですね。
そうですね。生活や運動など、身体を動かす際に使われるエネルギーを「活動代謝」と言います。脚筋力がつくと、この「活動代謝」が向上し、日常の動作で得られる運動効果が高まるため、痩せやすい身体になることも期待できます。
「高齢者においては、ふくらはぎの筋肉量が多いと死亡率が低くなる」という研究データもありますよ。
「高齢者においては、ふくらはぎの筋肉量が多いと死亡率が低くなる」という研究データもありますよ。
「痩せやすい身体に」と聞くと、
身体の衰えを感じていない若い世代でも関心が高そうです!
身体の衰えを感じていない若い世代でも関心が高そうです!
「痩せやすい」だけでなく、若いうちから脚筋力を鍛えておくことは、運動器の衰えが原因で、立つ・歩くといった基本的な移動機能が低下するロコモティブシンドロームや、心身の衰えが進んだ状態を指すフレイルといった将来的なリスクを低く抑えることにもつながります。
それはなぜでしょう。
筋肉はしっかりと鍛えておかない限り、細胞数の減少を伴いながら加齢でどんどん落ちていきます。そして筋肉は、肌などと違って細胞の生まれ変わりがあまり起こらない組織。若いうちから刺激を与えて細胞数を維持することが大切です。
運動しておかないと、
年齢が若くても衰えは進んでしまうのですね。
年齢が若くても衰えは進んでしまうのですね。
骨折の経験があるとわかりやすいのですが、ギプスをしていると、外したときにその部分がすごく細くなっていますよね。
これはしばらく筋肉を使わなかったことで筋細胞が減少してしまったためです。年齢を重ねても筋細胞を多く維持できていれば、ロコモティブシンドロームやフレイルの予防につながります。
これはしばらく筋肉を使わなかったことで筋細胞が減少してしまったためです。年齢を重ねても筋細胞を多く維持できていれば、ロコモティブシンドロームやフレイルの予防につながります。
脚筋力の影響は、日々の体力から疾患予防、
さらには寝たきり防止にまでおよぶのですね。
さらには寝たきり防止にまでおよぶのですね。
体力や心肺機能が高まれば、疲れにくくなることで行動範囲も広がり、生活の質も向上するでしょう。脚の筋肉は生きるための土台であるとともに、心身の健康を作る基盤だと言えます。
こう聞いても、もしかすると「脚は毎日動かしているから大丈夫」と思われるかもしれませんね。ですが不思議なことに、脚の筋肉は他の部位の筋肉よりも加齢によって衰えやすいという特徴があります。
こう聞いても、もしかすると「脚は毎日動かしているから大丈夫」と思われるかもしれませんね。ですが不思議なことに、脚の筋肉は他の部位の筋肉よりも加齢によって衰えやすいという特徴があります。
日々使っているはずの筋肉が、
他の部位よりも早く減少してしまうのですか?
他の部位よりも早く減少してしまうのですか?
そうなのです。脚の筋肉は30代から減少がはじまり、60代で一気に加速し80歳で半分程度にまで減少します。
日常から身体を支えるのに使われ続けている脚の筋肉が他の部位よりも早く衰えることに矛盾を感じますが、大事な部位ほど衰えやすいのは、種の保存的な観点から見れば次世代にバトンタッチするための自然の摂理と言えるかもしれません。
日常から身体を支えるのに使われ続けている脚の筋肉が他の部位よりも早く衰えることに矛盾を感じますが、大事な部位ほど衰えやすいのは、種の保存的な観点から見れば次世代にバトンタッチするための自然の摂理と言えるかもしれません。
個人ではなく、もっと広い視点で見れば矛盾ではない、と。
しかし、人生100年時代の現代、80歳で次世代にバトンタッチはまだ早い。それよりも、早くから鍛えて介護不要な自立した身体、次世代に負担をかけない健康な身体をつくっておくことが重要です。
そして、肌のシワや毛髪の減少は加齢に抗うことが難しいのですが、筋肉は時間を巻き戻せる数少ない組織でもあります。もちろん早いうちから鍛えるに越したことはありませんが、歳を重ねてからでも遅くはありません。
そして、肌のシワや毛髪の減少は加齢に抗うことが難しいのですが、筋肉は時間を巻き戻せる数少ない組織でもあります。もちろん早いうちから鍛えるに越したことはありませんが、歳を重ねてからでも遅くはありません。
時間を巻き戻せるというのは、うれしい事実ですね。
ですから、「いつから運動しよう」と考えるのではなく、今日からはじめましょう。「筋トレ」の印象の強い私が言うと意外かもしれませんが、私が普段から運動習慣がない人や運動が苦手な人におすすめしているのが、自転車運動です。
若い世代から高齢の方まで、
年齢を問わずメリットがある脚筋力。
後編では、谷本先生が
「自転車は脚筋力をつけるのに適している」
と考えられる理由に迫ります。
年齢を問わずメリットがある脚筋力。
後編では、谷本先生が
「自転車は脚筋力をつけるのに適している」
と考えられる理由に迫ります。