2019.06.21 更新

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国立研究開発法人理化学研究所
健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム
プログラムディレクター

医学博士 渡辺 恭良 教授

1976年京都大学医学部卒、1980年京都大学大学院修了医学博士、1981年京都大学放射性同位元素総合センター・助手などを経て、現在は大阪市立大学健康科学イノベーションセンター顧問、大阪市立大学名誉教授、一般社団法人日本疲労学会理事長などを兼任。疲労についての著書多数。

前編のお話

  1. ① 「身体のサビ」って何?
  2. ② 膝の痛みもサビているサイン。
  3. ③ 身体のサビがあらゆる病気につながる。
  4. ④ ストレスや疲れと身体のサビの関係。
Cyclingood
「身体がサビる」とは、言葉ではよく耳にするのですが、
具体的にどのような状態なのかを教えていただけますか?
人間はエネルギーを作るために、すべての細胞が酸素を使って炭水化物や脂肪酸などを燃やしています。呼吸によって供給された酸素を使ったときに副産物として発生するのが活性酸素です。活性酸素の量が増えすぎてしまうと、タンパクや脂質など細胞内の重要な部品が酸化されさび付いた状態になります。この細胞が酸化した状態をいわゆる「サビる」といいます。
Cyclingood
活性酸素が増えすぎると細胞内の重要な部品が傷つき
酸化が進むのですね。なかなか自覚しにくいような...。
そうですね、自分では「細胞や身体がサビている」とは実感しにくいものです。病院での血液検査や尿検査によって生体酸化の具合を知ることはできますが、通常の一般的な検査にはまだ含まれていない状況です。せめて今後は健康診断で「生体酸化指数」が出せるようになればと考えています。
Cyclingood
身体がサビている状態を知ることは簡単ではないのですね。
では、その状態を示すサインとして、
何か目安になることはあるのでしょうか?
身体がサビている状態は、細胞が酸化した状態であると先ほどお話しました。その酸化した状態は炎症を起こす主な原因であるため、関節が動きにくい、膝が痛むなどの不具合を感じたら、酸化も進んでいる目安として考えられます。
Cyclingood
なるほど、そういう痛みも実は細胞が酸化することが
関わっているかもしれないのですね。
他にはどのような影響があるのでしょうか?
身体がサビた状態によって、まず疲れが抜けない感覚になります。脳細胞・筋肉細胞・免疫細胞などの細胞のいずれかあるいはどれもがオーバーワークになり、活性酸素を処理する能力が低下した状態が続くと「疲れ」も取れず、あらゆる病気につながっていくと考えられています。
Cyclingood
身体がサビた状態が続くと
病気になりやすいということですか?!
その通りです。糖尿病などの生活習慣病はその代表的な疾患ですね。がんは活性酸素以外の要因として細胞の変異に起因することがあり、必ずしも細胞の酸化だけが原因ではないと思われますが、がん以外の疾患についてはほとんどが増えすぎた活性酸素を処理する力が低下することも影響していると言えます。
Cyclingood
ということは、病気にならないためにも、日頃から身体が
サビないように意識することがとても重要だと感じますが、
そのためには何に注意したらいいのでしょうか?
活性酸素を処理する能力の低下が続かないように意識することが大切です。活性酸素を処理する能力を低下させる要因は、加齢やストレス、疲労をため込んだ状態が続くことで起こると考えられます。さらに睡眠不足や偏った食事など、生活習慣に起因してさびついた細胞を修復できない状況が続く場合が大いに考えられます。
Cyclingood
ストレス低減や良質の食事や睡眠などを意識していれば
身体がサビることを防ぎやすくなると考えられますね。
もちろんそうです。しかし現代人は、仕事で休めない状態が続いても頑張ってやりきろうとしますし、ストレスを感じていたり睡眠不足が続いてもそのままにしてしまいがちです。こうした疲れやストレスの蓄積によって、脳が本来もっている疲労を感知するセンサー機能が低下してしまいます。
Cyclingood
ではその疲労を感じるセンサーが
鈍ってしまうとどうなるのでしょう?
自分で疲れを自覚しにくくなってしまうので、最悪の場合社会問題にもなっている過労死に至ることがあります。そのため疲れを自分で感じることは休息が必要なサインであり、そのサインにきちんと対応することがとても大切になるのです。
Cyclingood
なるほど。
疲労やストレスを感じたら、それは身体が休息を求めていると
受け止めなければなりませんね。
そうですね。ストレスは焦り・不安や悩みが脳を支配している状態です。これは脳そのものが休めない、つまりは回復できにくい状態にあるということです。仕事が立て込んで睡眠不足が続くという物理的な状況だけでなく、気持ちの有り様についても自分で客観視して、ストレスを上手に晴らしていくことが身体がサビないためのひとつの方法になります。
Cyclingood
後編では、さらに詳しい生活習慣と運動について
渡辺先生にお話を伺います!

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