2022.06.15 更新

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岡山大学大学院 環境生命科学研究科
森田 英利 教授

1991年岡山大学大学院自然科学研究科博士課程修了。米国ミネソタ州立大学博士研究員、麻布大学獣医学部教授を経て、2015年より岡山大学大学院環境生命科学研究科教授。

前編のお話

  1. ① 腸内細菌と腸内フローラのキホン
  2. ② 良い腸内細菌・悪い腸内細菌
  3. ③ 腸内フローラ改善には、一に食事、二に運動
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近年「腸活」という言葉をよく聞くようになりました。2020年には乳酸菌関連市場が8,000億円にまで達するほど、お腹の調子を整えることへの関心が高まっているようです。
腸は消化・吸収を行うほか、外敵と戦うための免疫細胞の70%を有し、幸せホルモンと呼ばれる神経伝達物質セロトニンの生成を行うなど、さまざまな役割を担っています。セロトニンは脳のイメージが強いかもしれませんが、その90%は腸でつくられます。
お腹の調子を整えることは、風邪をひきにくくなる、肌の調子を整える、アレルギー症状を改善する、ストレスを軽減するなど多様なメリットがありますから、ストレス社会とも言われる現代人にとって「腸活」はとても重要と言えます。
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「腸活」の中でよく耳にする腸内細菌や腸内フローラとは、
そもそも何なのでしょうか。
人の腸管には、目には見えない約60兆個、1,000種類以上の細菌が存在しています。多種多様な細菌のうち、腸管に生息する細菌が腸内細菌。腸内細菌は細胞分裂を主な理由として菌種ごとに腸の細胞や腸管の粘液層に住みついており、その様子からお花畑をイメージして、腸内細菌の集まりは通称「腸内フローラ」と呼ばれています。
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腸内の密集した細菌が「腸内フローラ」なのですね。
では、「腸内フローラ」はどのような役割をもっているのですか?
ここでは大腸に住む腸内細菌についてコメントします。
大腸に住む腸内細菌は、胃や小腸で消化されて人と消化管上部の細菌に栄養素などを吸収された食べ物の残りの成分を利用して生きています。
そして、大腸に住む腸内細菌が食べ物を分解する際に作られる「短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)」が人に非常に有益です。免疫細胞のバランスを整えたり、脳機能への貢献、セロトニンの分泌を促すなど、多様な働きもわかってきました。
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食事を栄養にしながら、身体に有用なものを生み出してくれるのですね。
どうすれば、良い腸内フローラになるのでしょうか?
腸内フローラの代謝物の中でも近年注目されているのが、「酪酸」や「酢酸」などの「短鎖脂肪酸」です。これは腸管の蠕動(ぜんどう)運動を促す腸内環境を整えたり、脂肪の細胞吸収を抑えたりするなど、独自の働きをしていることがわかってきました。つまり、腸内フローラを整えるには、「短鎖脂肪酸」を生み出す腸内細菌を増やすことが重要だと言えます。
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よく、「太る菌・痩せる菌」という表現を耳にしますが、
「短鎖脂肪酸」が関係しているのでしょうか?
そうですね。特定の「太る菌・痩せる菌」があるのではなく、「短鎖脂肪酸」を生み出す腸内細菌が多ければ痩身(そうしん)傾向、少なければ肥満傾向の腸内フローラであると言えるでしょう。
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では、「短鎖脂肪酸」を増やし、
腸内環境を改善する方法はありますか?
やはり一番は食事。食物繊維やオリゴ糖を多く含む食材や発酵食品がおすすめです。食物繊維は腸の蠕動(ぜんどう)運動を促す、血糖値の急上昇を抑えるなどの働きがあり、オリゴ糖は有益な細菌の栄養源になります。発酵食品は乳酸菌を多く含み、腸内フローラを刺激して腸内環境を改善する効果があります。ビフィズス菌入りヨーグルトの摂取ではいろいろ有益な研究成果が報告されています。
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ヨーグルトや乳酸菌飲料を
意識的に摂っている人は多そうですね。
はい。とは言え、同じ食材ばかりを摂るのはあまりおすすめできません。食事が偏ると、その食事に有利な菌だけが育ち、腸内環境のバランスが崩れると考えられます。いろいろな食材をバランス良く食べることで、腸内フローラの多様性を保つことができます。
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では、食事の次に有効なのは何でしょうか。
もう一つは運動です。私が研究対象とするプロのアスリートは、普段運動をしない人と比べて明らかに菌種が多いことがわかっています。菌種やバランスは運動の種類によって異なり、例えば長距離を走る陸上選手は長時間運動するための「疲れにくい腸内フローラ」を、激しい運動で筋肉や内臓に負荷がかかるラグビー選手は「ダメージの修復に有用な腸内フローラ」をもっています。これは、その運動に有利になるように腸内フローラが変化しているためだと考えられます。
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食べ物の消化・吸収だけでなく、
身体や心にさまざまな影響をもたらす腸内フローラ。
その改善には食事と運動が効果的だと森田先生は話されます。
後編では運動が腸内フローラに与える影響や、
具体的な運動量についてお伺いします。

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