2022.12.14 更新

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東京有明医療大学 保健医療学部
髙橋 康輝 准教授

専門は健康・スポーツ科学。運動と呼吸・循環機能と心の関係などの研究。筑波大学科学技術振興研究員、倉敷芸術科学大学健康科学科助教を経て、2009年より東京有明医療大学准教授。

前編のお話

  1. ① 1日2万回以上行われる呼吸の役割
  2. ② 呼吸は3種類に分類される
  3. ③ 現代人は浅くて速い!?呼吸とメンタルの関係
Cyclingood
髙橋先生、まずは呼吸の役割から教えていただけますか?
はい。私たちは1日に約2万2千回呼吸を行っており、空気中の酸素を肺から体内に取り込んで、二酸化炭素を体外へと排出しています。この換気によって、生命活動に必要なエネルギーを生み出すことができます。
Cyclingood
1日に2万回以上も!肺は休みなく働いているのですね。
呼吸と聞くと肺が働いているというイメージですよね。実は、肺自体には運動機能はないんですよ。
Cyclingood
そうなのですか!?
呼吸は、主にお腹や胸部の筋肉によって行われています。吸うための「吸息筋」と吐くための「呼息筋」、総称して「呼吸筋」と呼ばれるこの筋肉の働きによって肺を広げたり収縮したりすることで、酸素を取り込み、二酸化炭素を排出することができます。
Cyclingood
呼吸が筋肉の働きによって行われているとは知りませんでした。
呼吸には3つの種類があるということも、知らない方が多いのではないでしょうか。呼吸は脳から筋肉への指令によって行われ、指令を出す脳の中枢によって3種類に分類できます。
Cyclingood
どのように分けられるのでしょう。
まず、生きるために欠かせないのが延髄を中枢とする「代謝性呼吸」です。例えば私たちは、1日食事をしなくても生きていくことはできますが、呼吸はたった数分止まるだけで生命に関わります。そのため、無意識下や睡眠時でも働き続けるのがこの「代謝性呼吸」です。
Cyclingood
脳の指令によって、体内の換気をずっと続けてくれるのですね。
次に、今まさに行われているのが大脳皮質を中枢とする「行動性呼吸」。しゃべる・歌うなど行動によって変化し、自分で意識的にコントロールできる呼吸です。
Cyclingood
3つ目は何でしょうか。
大脳辺縁系の扁桃体を中枢とし、喜怒哀楽によって変化する「情動呼吸」があります。緊張したときに呼吸が浅くなったり、興奮したときにハッハッと息が上がったりするのは、この「情動呼吸」によるもの。3つの呼吸が複雑に影響し合いながら、私たちは呼吸をしています。
Cyclingood
そう言われてみれば、緊張によって呼吸が浅くなることはあります。
扁桃体は感情を司る場所でもあるため、ストレスがかかったりすると感情に影響されて呼吸が浅くて速くなります。ストレスにより必要以上に呼吸をしてしまい、体内の酸素と二酸化炭素のバランスが崩れてしまうことを「過呼吸」と呼びます。そして、感情によって呼吸が変化するように、感情も呼吸の影響を受けます。
Cyclingood
つまり、呼吸が浅い状態が続くと...。
安静時の呼吸が常に浅くて速い場合、心は「不安にさらされている」と認識し、ストレスを感じてしまうのです。現代人はストレス以外にも呼吸が速くなりやすい環境に置かれているため、呼吸を整えることはとても大切です。
Cyclingood
なぜ現代人は呼吸が速くなりやすいのでしょう。
大きな原因は、スマホや長時間のデスクワークによる姿勢の悪化。特にスマホは操作中に前かがみになりやすく、猫背やストレートネックを引き起こします。姿勢が悪いと胸部の空間が狭くなり、空気を吸える量が減少します。
Cyclingood
確かに姿勢を猫背ぎみにしてみると、呼吸しづらい感じがします。
肺が広がるための空間が狭くなりますからね。すると脳は「酸素が足りない」と指令を出し、呼吸数を増やして酸素を取り込もうとします。呼吸数が増えると、息を吐ききる前に次の「吸う」動作がはじまって、しっかり吐ききれないという悪循環を引き起こすのです。
Cyclingood
酸素を取り入れようとすることが、悪循環を生んでしまうのですね。
ほかにも、仕事や私生活に常に不安を抱えている、忙しいからと湯船に浸からずシャワーで済ませるなど、リラックスする時間がとれていない人も浅くて速い呼吸になっている可能性があります。
Cyclingood
忙しさや不安が、さらに心にストレスを与えてしまっているかもしれないということですか?
そうですね。ですが反対に、呼吸が深くてゆっくりであれば、心もリラックスすることができます。現代人の不調の多くは自律神経の乱れが原因と言われていますが、私たち呼吸の研究者は、「呼吸の乱れが自律神経の乱れを生む」という順番で考えています。
Cyclingood
では、呼吸を整えることで、自律神経が整えられるのでしょうか?
まず、ストレスなどが原因で浅くて速くなっている呼吸を、あえてゆっくり行ってみましょう。すると副交感神経が優位になり、心肺機能が落ち着いて血圧が低下します。その結果、自律神経が整ってリラックスできる。呼吸を意識するだけで、リラックス状態を生むことができるのです。
Cyclingood
よく「緊張したときは深呼吸」と言われますが、根拠があったのですね。
失敗したときなど、普通は呼吸が浅くなりがちですが、深くゆっくり呼吸できていれば平常心を保ちやすくなります。ストレスや緊張をコントロールできれば、どんな状況でも実力を発揮できるようになるかもしれませんね。
Cyclingood
私たちは無意識のうちに浅くて速い呼吸を続け、
心にストレスを与えているかもしれません。
そこで、あえて「深くゆっくり」を心がけることで
呼吸からメンタルへの好循環を生むこともできると髙橋先生。
後編では、普段の呼吸を改善するための
具体的な方法を伺います。

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