2019.11.22 更新

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筑波大学 博士(体育科学)
紙上(かみじょう) 敬太 准教授

2006年筑波大学大学院博士課程人間総合科学研究科体育科学専攻修了。2009年から3年間イリノイ大学で博士研究員を務めるなど国内外での研究を精力的に行う。早稲田大学スポーツ科学学術院助教・講師などを経て、2019年より現職。

前編のお話

  1. ① 仕事に直結する脳機能「ワーキングメモリ」
  2. ② 脳の機能が高まると、幸せな人生につながる?!
  3. ③ 自転車運動後に「ワーキングメモリ」が向上
  4. ④ 実は運動と脳のメカニズムはわかっていない
Cyclingood
先生は脳のワーキングメモリと運動との関係を実験で
確認されたそうですね。
はい、30〜50代の働き盛りの男性28名を対象に、安静にした後と運動した後に脳のワーキングメモリがどのような変化をもたらすかを自転車運動を用いて実験しました。
Cyclingood
まずはワーキングメモリが何かをご説明いただけますか?
理解、判断、論理などの脳の知的機能を総称して認知機能と言います。その中の高次な機能に実行機能があり、これは「目標を達成するために行動、思考、情動をコントロールする能力」と定義付けられています。この実行機能を分類すると、主に短時間に情報を保持して処理する能力である「ワーキングメモリ」、自己を制御する「抑制機能」、場に応じて注意を切り替える「認知的柔軟性」の3つに分けられます。
Cyclingood
実行機能は仕事にも関わりそうですね。
その通りです。「ワーキングメモリ」、「抑制機能」、「認知的柔軟性」は専門的な用語なので聞きなれないかもしれませんが、これらの機能は論理的思考力、計画力、問題解決能力と深く関わります。つまり、仕事を円滑に、効率的に推進するために重要な能力だと考えられます。
Cyclingood
どれも仕事で発揮したい、身につけたいと願う能力です。
実行機能の研究者の中には「実行機能は心身の健康、ジョブサクセス、QOLなど私たちの生活のあらゆる面に関わる重要な機能」と表現する人もいます。つまり、仕事面だけでなく私たちの生活や人生の幸せに深く関わっている機能だとも言えるのです。
Cyclingood
仕事だけでなく生活や人生にも深く関わる機能…。
ますます高めたい能力です。
脳研究の世界では、2000年頃から20〜30分程度の運動後に実行機能が改善される、つまりは仕事がはかどるようになることは明らかになっていました。私の今回の実験では安静にした後と運動した後に脳がどのような状態になるのかに注目し、運動条件に自転車を用いてワーキングメモリの働きがどう変化するかを調べました。
Cyclingood
それで先生、結果はどうだったのでしょうか?
結論から言いますと、
シンプルな自転車運動が、ワーキングメモリを向上させたという結果が出ました。
Cyclingood
それは自転車をこぐことで、ワーキングメモリ、
つまり脳の処理能力が上がったということですか?
はい。今回の実験では、何もしないよりも自転車をこいだ後の方がテストの正答率が高く、反応が速く、そして集中した状態になっているという結果でした。
Cyclingood
ということは、自転車通勤をするとその後の仕事の精度や
スピードが向上しやすいと考えられますね。
そのように解釈することもできると思います。仕事が上手く進むと時間的な余裕も生まれやすい。脳機能を活性化することによって、その人の生活の質が向上する可能性が大いにあると考えられます。
Cyclingood
でも先生、自転車運動でなぜワーキングメモリの機能が
高まったのでしょうか?
実は、運動後に実行機能が向上するメカニズムはわかっていません。一般的には運動によって脳血流が増加し、それとともに酸素の供給量が増えて「冴える」状態になっていると考えられていますが具体的なことはまだこれから。国内外での研究成果が待たれます。
Cyclingood
詳しい実験の内容は後編にて。
ワーキングメモリを“働かせる”ための運動方法も
お話いただきます。お楽しみに。