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ビジネスを制するには、MBAより自転車!? 1
仕事にも勉強にも、自分の「脳」をできるだけ働かせたい。それは誰もが思う願い。それがもし、軽い有酸素運動でかなうとしたら・・・?仕事の効率がグンと上がる!かもしれない運動の取り入れ方、必見です!
2015.01.22 更新
筑波大学 体育系 運動生化学
筑波大学大学院 人間総合科学研究科体育科学専攻長
医学博士
征矢 英昭 教授
「脳フィットネスを高める運動条件の探索と運動プログラムの開発」が主な研究テーマ。文部科学省の「ヒューマン・ハイ・パフォーマンスを実現する次世代健康スポーツ科学の国際研究教育拠点」のプロジェクトリーダーも務める。
先生、脳の神経細胞は加齢と共に失われるものとばかり思っていましたが、そうではないのですね。
そうです。脳の一部は年齢に関わらず、運動によって筋肉の一部のように肥大することが近年の研究によって明らかになっています。「海馬」という領域をご存じでしょうか。ここは主に学習・記憶を司っているのですが、海馬の神経細胞が新生し、記憶能が向上することが動物研究によって明らかになっています。これは人でも研究が行われ、1年近く中強度のエアロビクス運動を行うことで海馬が肥大し、記憶能が高まることが報告されています。
中強度のエアロビクス...。
運動習慣のない人や高齢の方には少しハードルが高そうです。
運動習慣のない人や高齢の方には少しハードルが高そうです。
そうでしょう。私たちはその運動強度に着目し、低強度の運動でも海馬の肥大が起こることを動物研究で明らかにし、さらに人でも同様かどうかを現在検証しているところです。実は海馬は、慢性的なストレスに弱く、海馬自体が萎縮します。これはうつ病のリスクファクターとして重視されています。つまり、運動によって海馬が発達するということは、ストレスに強い脳をつくることにもつながると言えるわけです。
現代人の多くが、ストレスを抱えていると言われています。
運動がストレスに強い脳をつくるのであればこれは大きなニュースですね。
運動がストレスに強い脳をつくるのであればこれは大きなニュースですね。
ストレスがそもそも何かという話をしておきましょう。ストレス反応は本来、命に関わるような事柄が起きたときに起こる反応で、人間の生命存続に欠かせないものです。ストレスを受けると、脳の領域である視床下部から脳下垂体、そして副腎皮質へとホルモンを分泌させて最適に対応できるよう働きかけ、ストレスを制御しています。この制御のバランスが崩れて長期化すると脳や身体に影響を及ぼし、免疫低下を招きます。つまり、ストレスそのものが悪者ではなく、ストレスを抱えた状態を長引かせることが良くないのです。このストレスの受け方は、非常に個人差があります。運動が好きな人にとっては楽しいものですが、苦手な人にとっては苦痛、つまりはストレスになってしまうかもしれません。その運動の内容、強度、環境などによっても感じ方は変わります。そのため私は、単に運動をすればストレス対策になる、ということよりも、自分に適した内容や環境で前向きに取り組める運動を生活に取り入れることが重要だと考えています。
その考えが先生の提唱されている「脳フィットネス」なんですね。
誰もが願うストレスを克服した快適な生活を実現したい。その思いから私たちがつくりだした新しい概念が「脳フィットネス」です。最新の生化学、生理学研究、脳科学研究の叡知を結集させて身近な運動方法に着目し、脳を活性化させ、感情を良い状態に保ち、認知機能を改善する可能性を追究しています。海馬が運動で発達することが動物研究で明らかになったことからもわかるように、脳も筋肉と同じ身体の一部。適切に鍛えることで筋肉と同じように機能が高まるのです。ではどんな運動条件で脳フィットネスを高めることができるのか。それを解明することによって、ダイエットやカロリー消費だけでない新たな運動の価値を提供できると信じています。
実際、誰にでも取り入れやすい低強度の運動で海馬の脳神経が増えたことを実証されたそうですね。
私たちが行った動物を用いた研究では、速歩き程度のスローランニングを1日30分、2週間続けたところ、海馬の脳神経が増え、6週間で認知機能のひとつである記憶能が向上することを明らかにしました。海馬はストレス反応を調節する視床下部の暴走を制御しているため、この結果から軽い運動でもストレスに強い脳を作ることにつながる可能性があると言えます。記憶能が向上することによって、認知症予防にも期待できますよね。お年寄りが軽い運動によってQOLを維持し、健康寿命を伸ばすことにも貢献できるかもしれません。
征矢先生の研究では、注意力や判断力を担う前頭葉の活性化と
低強度の運動との関わりも明らかにされたと聞いています。
次回はそのお話しをお伺いします。