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いまこそ必要な「気持ちよさ」。その効果とは? ➊
先の分からない状況が長引き、知らず知らずのうちにストレスが溜まっていませんか。この状況下でクリアな心を保つためには、意識的に自分が「気持ちいい」と思える瞬間をつくることが大切なのだそう。でも、気持ちよさってそもそも何なのでしょう?今回は、知っているようで知らない「気持ち」のこと、気持ちよさが心身に与える効果、そして自転車によって気持ちよさをつくる方法について。感性工学を研究する井口先生にお話をお伺いしました。
2021.6.4 更新
中京大学 工学部 機械システム工学科
博士(工学) 井口 弘和 教授
1976年東京理科大学卒業。1979年 (株) 豊田中央研究所に入社し、感性工学による快適性、安全性を追究した自動車の開発に従事。1996年名古屋工業大学大学院博士号取得の後、2003年日本人間工学会認定人間工学専門家資格取得。2004年から中京大学教授(感性工学研究室)。2013年~2016年工学部学部長。
前編のお話
- ① コロナ禍特有のストレス
- ② オンライン化のメリット・デメリット
- ③ コロナ禍のストレス解消に大切なのは「気持ちよさ」
- ④ 「気持ち」の分類
今回は、不安な状況下で心の健康を保つ方法を先生と一緒に
考えたいと思っています。
考えたいと思っています。
はい、よろしくお願いします。まず、コロナ禍のストレスについてご説明しましょうか。
お願いします。
そもそも私たちの生活にストレスは付き物ですが、普段は誰かとしゃべったり、好きな場所へ出かけたりして生活の中で少しずつストレスを解消することができます。ですが、コロナ禍はこうした活動や誰かとつながりたいという思いを妨げるため、コロナ禍以前に人々が抱えていたストレスとは性質が大きく異なってきています。
確かに、いろいろな活動が制限されて不自由だと感じることが
多いですね。
多いですね。
この制限は、人が本来もっている欲求を脅かしていると言えます。心理学の定説である「マズローの欲求5段階説」では、人間の欲求は「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」の5段階に分類されます。コロナ禍はこれらの欲求のうち、3つを脅かしています。
5つのうち3つも!?
まず、先の見えない不安感による「安全欲求」への驚異。人との距離を保つソーシャルディスタンスの推奨や社会活動のオンライン化による「社会的欲求」の抑制。そして、外出自粛や活動の制限による「自己実現欲求」の抑制の3つです。
それでも、オンライン化によって得られるメリットも
ありますよね?
ありますよね?
確かに、移動時間の短縮や満員電車からの解放などのメリットもありますが、その分デメリットも存在します。例えば誰かに会いに行くとき、移動する間に「会いたいな」「楽しみだな」と期待感が高まりますよね。この蓄積された期待感を、実際に会って話したときの楽しさが上回ることで、「今日は楽しかった」という気持ちが増し、さらに帰り道もその喜びを反芻することができます。オンラインでは身体的な負荷は少なくても、期待感を高める時間がないために精神的なストレス解消としては効果が弱くなってしまうのです。
普段の何気ない行動が知らず知らずストレス解消に
なっていたのですね。
なっていたのですね。
今の状況は、普通に生活していてもストレスが溜まりやすいということです。さらに、新しい生活様式になかなか馴染めなかったり、日常の中で不自由さを感じたりすることも加わり、一層ストレスフルな状況になっています。
では、心の健康をうまく保つにはどうすればいいのでしょう。
活動の制限などのストレス要因が多く、さらにこれまで自然と解消されていたストレスが蓄積されてしまう。まず、私たちがこのような状況にいることを理解し、意識的にストレスを解消することがとても大切です。その方法の一つが、自分が「気持ちいい」と思える時間をつくることです。
なぜ、「気持ちいい」と思える時間が必要なのでしょうか?
人が「気持ちいい」と感じるとき、脳の中ではドーパミンという物質が分泌されます。ドーパミンとは神経細胞の間を行き来して情報を伝える神経伝達物質で、ストレスによって乱れた自律神経のバランスを整える働きをもっています。
「気持ちいい!」と感じる瞬間が、ストレス解消になるのですね。
そう、「気持ちよさ」は単に感覚的な喜びだけでなく、自律神経の乱れを抑制し、心身の安定をもたらしてくれるのです。ちなみにドーパミンは加齢によって減少していくので、歳を重ねるほど意識的に「気持ちよさ」をつくることは、コロナ禍でなくても大切です。
先生…、そもそも「気持ちいい」って何なのでしょう。
心理学ではまず「感情」という大きな枠があり、その中で情動・気持ち・気分の3つに分類されます。「情動」とは喜怒哀楽のことで、「ついカッとなる」に代表される無意識下で瞬間的に燃え上がる一過性の激しい感情です。とても本能的で、行動や表情に表れるのが特徴です。「気分」とは幸福・憂鬱・不安など、比較的感じ方が弱く、継続時間の長い感情のこと。デートの際に時間が経つに連れてだんだんと盛り上がっていくようなイメージです。
そして「気持ち」とは?
この2つの間にあるのが「気持ち」で、「気持ちよさ」もここに分類されます。高まる時間も継続時間も、「情動」より長く、「気分」より短いものだと考えられています。
これらの感情はどこから生まれるのですか?
感情を司るのは、脳の中の「大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)」という場所です。外部からの刺激を感じるとこの場所が過去の記憶などと照らし合わせて「快・不快」を判断します。このとき、「快」つまり「気持ちいい」と判断されると、「大脳辺縁系」の「側坐核(そくざかく)」からドーパミンが分泌されます。
いつの間にか溜まってしまうストレスを解消し、
心身の健康を保つには意識的に
「気持ちいい」時間をつくることが必要。
中編では気持ちよさの種類と、自転車によって気持ちよさを
つくる方法について考えていきます。
心身の健康を保つには意識的に
「気持ちいい」時間をつくることが必要。
中編では気持ちよさの種類と、自転車によって気持ちよさを
つくる方法について考えていきます。