2022.6.22 更新

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岡山大学大学院 環境生命科学研究科
森田 英利 教授

1991年岡山大学大学院自然科学研究科博士課程修了。米国ミネソタ州立大学博士研究員、麻布大学獣医学部教授を経て、2015年より岡山大学大学院環境生命科学研究科教授。

後編のお話

  1. ① 運動をすると、新しい腸内細菌が生まれる!?
  2. ② 運動量が週6時間でも20時間でも大きな違いはない!?
  3. ③ 量よりも重要な継続のチカラ
Cyclingood
前編では、腸内フローラ改善には食事と運動が効果的だと教えていただきました。ではなぜ運動をすると腸内フローラの菌種が増えるのでしょう。
詳しいメカニズムは解明中ですが、運動自体が腸内フローラへの刺激になる、運動をすると食事への意識が高まるなどの複合的な要因が考えられます。また、運動によってエネルギーとともにさまざまな代謝物が消費され、枯渇した分を補うために腸内フローラが活性化されることも理由の一つでしょう。実際、激しくぶつかり合って身体にダメージを受けるラグビー選手は、それを修復するために有用な細菌を多くもっています。
Cyclingood
運動の刺激などによって、それまで腸内になかった
新しい菌種が腸内に生まれるということですか?
いいえ、実は人が約1,000種もっている腸内細菌のうち、細胞数が少ないと測定限界ということで検出できません。細胞数が少ないとその代謝物の量や生体応答への影響も少なくなってしまいます。しかし、その人にとって測定限界でも有用な細菌がある場合は、食事内容を変えたり、運動をしたりすると有用な測定値以下の菌種が増えてくれることがあります。
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そういうことなのですね。先生の研究対象はプロのアスリートですが、アスリートレベルの運動でなければ効果は得られないのでしょうか...?
運動量が多ければいい、というわけでもありません。週に6時間以上運動する自転車競技者の腸内細菌を調査したアメリカの研究では、運動時間が週6〜10時間の人も20時間以上の人も、腸内細菌の構成に明確な違いはありませんでした。
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運動時間と腸内フローラの多様性には
大きな相関がないのですね。
そのようですね。日常的な運動で充分に効果があると考えられます。
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週6時間であれば、例えば平日片道30分の自転車通勤に
少しプラスすることでまかなえそうです。
自転車は下半身の筋肉を積極的に使い、エネルギーを消費しますから、腸内フローラにも多様な刺激がありそうですね。また、適度な運動は自律神経を整える作用があります。自律神経が整えば、腸内環境に重要な睡眠の質が向上します。よく眠り、よく動くことは健康の基盤になります。
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また、自転車で走ることによる爽快感や解放感によって、
ドーパミンやセロトニンなどの脳内ホルモンも分泌されます。
ストレス発散・リラックス効果をもたらす脳内ホルモンですね。腸は"第二の脳"とも呼ばれ、脳に受けたストレスは腸にも反映され、腸の不調は精神的ストレスに。このネットワークを「脳腸相関(のうちょうそうかん)」と言います。脳との密接な関係を考えると、ストレスを軽減することは腸内環境を整え心身の健康を保つためにとても重要だと言えます。
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脳とも深く関わっていると聞くと、
運動することで腸内環境が変わるのだと期待できますね。
そうですね。運動しよう!と意気込むのもいいですが、日常の中でもできることがあります。皆さんはあまり意識していないかもしれませんが、通勤や通学、買い物、階段の上り下りなど、日常的な行動も腸内フローラにとっては立派な運動。私たちの研究成果ですが、寝たきりの高齢者でも、流動食(胃ろう)の人と通常の食事の人では腸内フローラの構成が異なっていました。食事による咀嚼も、腸内フローラにとっては運動的な刺激になっていると言えるでしょう。
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では、エスカレーターよりも階段を選ぶ、
食事はよく噛んで食べるなども、効果があるのですね。
食事と運動の相乗効果で多様な刺激を与えることによって、腸内フローラはより良い状態へと変化していきます。ただし、腸内フローラは日々めまぐるしく変化しているため、運動も食事も効果は一時的。継続しなければすぐに元に戻ってしまい、体調の変化といった効果を実感することは難しいでしょう。大切なのは、運動やバランスの良い食事を習慣化させ、腸内細菌に刺激を与え続けることです。日々の積み重ねを長く続けていくことで、お腹の調子が変わったと実感できる日がやってくると思います。
Cyclingood
バランスの良い食事と適度な運動の継続で腸内フローラは改善する。
お腹の変化をすぐには実感できなくても、細菌たちが
お腹を整えてくれていると信じれば続けることができそうです。
森田先生、ありがとうございました。

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