2021.10.6 更新

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立命館大学 スポーツ健康科学部
医学博士 家光 素行 教授

筑波大学大学院医学研究科博士課程で博士(医学)を取得。「生活習慣病およびサルコペニアに対する運動効果と機序の解明」が主なテーマ。運動効果のメカニズムを明らかにするために、DNA、遺伝子、細胞、組織、個体までを統合的に解析。その結果をもとに、トレーニング方法の開発に取り組んでいる。

後編のお話

  1. ① 毛細血管は何度でも蘇る!
  2. ② 血管新生を促す有酸素運動
  3. ③ 自転車運動によって生まれる好循環
Cyclingood
一度衰えてしまった毛細血管は、
もう健康な状態には戻らないのでしょうか。
諦める必要はありません。実は、「血管新生」という機能によって衰えた毛細血管を蘇らせることができます。「血管新生」とは毛細血管が枝分かれして新しく伸びる働きです。
Cyclingood
どうすれば「血管新生」が起こるのでしょうか。
この機能に欠かせないのが血流です。血流が速くなり、血液がどんどん流れてくると、血管が刺激されてNO(一酸化窒素)という物質が分泌されます。血管内で分泌されたNOは血管を広げて柔らかく保ち、血圧を安定させて傷ついた血管を修復。さらに、血管新生を促すVEGF(血管内皮細胞増殖因子)の分泌を促進します。これが毛細血管を蘇らせるメカニズムです。
Cyclingood
血流を促すことが毛細血管の再生にとても重要なのですね。
その通り。
そして血流を生み出すために最も効果的なのが運動です。
Cyclingood
なぜ運動が効果的なのでしょう?
皆さんも経験があると思いますが、少しキツイ運動をすると息が上がりますよね。これは身体がたくさんの酸素を求めている証。心臓がドッドッと脈打ち、新鮮な酸素を含む血液が勢いよく身体中をめぐることで、血管が刺激されて血管新生が促進されるのです。
Cyclingood
運動であればどのような種類でもいいのでしょうか?
血流を生み出すためには息を弾ませることが重要ですから、ウォーキングやランニング、自転車運動などの有酸素運動が有効です。
Cyclingood
しかし、筋トレでも息が弾むことはありますよね。
確かにそうですが、血管の修復や新生のためには長時間運動を継続して全身に血液をめぐらせることが重要です。長時間の運動に使われるのは遅筋と呼ばれる筋肉が中心。一方、筋トレなどのレジスタンス運動は速筋が中心です。速筋は短時間で多くのエネルギーを使いますが、長くは続けられないため、血液を効果的にめぐらせるには、激しい運動よりも有酸素運動が適していると言えます。
Cyclingood
有酸素運動の中でも、自転車運動の効果はどうでしょう。
自転車運動は血液のめぐりにとても適していると私は考えています。その一番の理由は、ふくらはぎにアプローチできること。ふくらはぎは筋肉の収縮と弛緩の動きがポンプのように働いて血管に圧力をかけ、血液を心臓へと送り出します。この「筋ポンプ作用」によって、ふくらはぎは「第二の心臓」とも呼ばれています。自転車運動はペダリングひとこぎでふくらはぎの筋肉を収縮・弛緩させるため、こいでいるあいだ中、リズムよく筋ポンプ作用を働かせることができます。
Cyclingood
自転車運動は、心臓から遠い足の血液を
効果的に送り出すことができるのですね。
そうです。さらに、スポーツバイクであれば前傾姿勢になるため、上半身を含む全身の筋肉と毛細血管を刺激することができますね。
Cyclingood
「息が弾む程度」と聞くと、運動習慣のない人には
少しハードルが高いかもしれません。
そんな方にこそ、自転車運動を取り入れてほしいですね。自転車は脚や膝への負担が少ないという特徴があります。さらに、変速機能や上り坂・下り坂などで運動強度のコントロールが可能。疲れても、軽いペダリングで身体を休めながら運動を続けることができます。休憩しながらでも結果的に運動時間が長くなれば、それだけ多く酸素を取り入れることができ、強度の異なる運動を繰り返すことで心肺機能向上にも効果が期待できます。
Cyclingood
心地いい風を感じながら休憩して、体力が戻ったら
また上り坂にチャレンジ!など緩急をつけることで、
飽きずに続けられそうです。
息が弾んで疲れてきたら、「新鮮な酸素が身体中をめぐっているんだな」と前向きに考えるといいかもしれませんね。
Cyclingood
最後に、運動以外でめぐりをよくする
ポイントを教えてください。
タバコやお酒を控え、ストレスを抱え込まないことが基本。その上で、食事面では塩分を摂り過ぎないこと。血中の塩分濃度が高まると、それを薄めようと身体に水分を溜め込んでしまうため、塩分の摂り過ぎはむくみと直結します。反対に、水分の摂り過ぎがむくみと直結するわけではありませんから、「寝る前は水分を控えている」という方も口を湿らせる程度には摂る方がいいでしょう。
Cyclingood
生活面でのポイントはありますか?
毎日湯船に浸かることです。お風呂に入ると身体が温まって血管が拡張されるだけでなく、水の浮力によって重力から解放され、血行が改善されます。また、長時間同じ姿勢を続けないことも重要です。デスクワークの場合は足首を回す、太ももを伸ばすといった座ったままでもできるストレッチを取り入れて、積極的に血流を促しましょう。
Cyclingood
運動や食習慣・生活習慣によって
血液をめぐらせ、老廃物を排出し、血管を健康に保つ。
そんな好循環が、疾患を防ぐだけでなく、小さな不調を抑え
日々の「いい感じ」を生み出す源なのだとよくわかりました。
家光先生、ありがとうございました。
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