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仕事でアタマを「はたらかせる」には? ➋
仕事を上手く、早く、終わらせたい。ミスなくこなしたい。というのは働く人にとって誰もが感じる願い。それが自転車運動でかなうとしたら...?今回は、運動と脳機能のひとつ「ワーキングメモリ」の関係を確認された筑波大学、紙上先生の実験結果を紹介。仕事前の運動がいい。しかも自転車運動のようなシンプルな運動がいいという「はたらく脳」に関するこのお話、ぜひ皆さんの毎日に役立ててください。
2019.11.29 更新
筑波大学 博士(体育科学)
紙上(かみじょう) 敬太 准教授
2006年筑波大学大学院博士課程人間総合科学研究科体育科学専攻修了。2009年から3年間イリノイ大学で博士研究員を務めるなど国内外での研究を精力的に行う。早稲田大学スポーツ科学学術院助教・講師などを経て、2019年より現職。
後編のお話
- ① 安静にした後と自転車をこいだ後にテストを実施
- ② 正答率も反応の速さも運動後の方が良い結果に
- ③ 仕事前は自転車のようなシンプルな運動がベスト
- ④ 自転車運動で「はたらく脳」へ
では先生、どのように実験を行われたのか
教えていただけますか?
教えていただけますか?
被験者は30〜50代の男性28名。画面に数字が次々と表示され、2つ前の数字と同じかどうかを答える2バックタスクというテストを用意し、ワーキングメモリを評価しました。この2バックテストを30分間の自転車運動の前・直後・30分後、30分間の安静の前・直後・30分後に行い、その正答率や反応速度、反応時間のばらつきなどを調べました。
安静にした後と自転車をこいだ後に
同じテストをしたのですね。
同じテストをしたのですね。
そうです。正答率については、安静条件で変化が見られなかったのに対し、運動条件では30分後に向上しました。運動した後に正答率が高まったのは、ペダリング運動がワーキングメモリを活性化したことを示していると言えます。運動直後には息が上がっていたり、汗をかいたりしていることもあって、少し時間を空けた後の方がパフォーマンスが高まることはよくあります。
なるほど。
次にテストの反応時間の結果について教えてください。
次にテストの反応時間の結果について教えてください。
安静条件では運動直後より30分後に反応時間が短縮しましたが、これは同じテストを繰り返した慣れの影響だと考えられます。一方、運動条件では運動直後から反応時間の短縮が見られ、30分後はさらに反応が速くなりました。反応時間の短縮は自転車運動の後の方が大きかったという結果になっています。
では反応時間のバラつきはどうでしょうか?
これは脳のパフォーマンスの安定性がわかるのですよね。
これは脳のパフォーマンスの安定性がわかるのですよね。
バラつきが小さい=パフォーマンスが安定している、集中している状態と言えます。この反応時間のバラツキも自転車運動の後の方が小さいという結果でした。特にバラツキの減少は運動条件の30分後に顕著に表れていましたね。
つまり相対的に、安静にしているよりも自転車をこいだ後の方が脳のはたらきが良くなっていたと。
この実験では運動後の方がワーキングメモリがよくはたらいていることが確認できました。しかしどんな運動をしてもその後の脳の機能が上がる、とは言い切れないのです。
といいますと?
運動なら何でもいいというわけではないということですか?
運動なら何でもいいというわけではないということですか?
その通りです。仕事前などの一時的な運動には頭を使わない単純な内容の方が適しているのではないかと考えています。仕事前に頭を使う複雑な運動をすると脳が疲労し、悪影響を与えかねません。脳も筋肉と同じようなもので酷使することで疲れるため、仕事前には何も考えないで運動に集中できる単純な運動が向いていると考えています。
ということは、ペダルをこいで走ることに集中しやすい
自転車運動は仕事前に適した運動だといえますね。
自転車運動は仕事前に適した運動だといえますね。
そうですね。疲れない程度の単純な自転車運動は仕事で「脳力」を発揮する事前の運動として適していると考えています。一方で、長く習慣的に取り組んで運動を継続していくには「楽しさ」が不可欠になってきます。人は楽しくないとやりたくなくなるものです。長く運動を続けるには、頭を使って競い合うテニスのようなスポーツだけでなくエクサゲームも有効だと考えられはじめています。エクサゲームとはエクササイズとゲームを掛け合わせた言葉で、最近人気の手に持ったリモコンに反応して、身体の動きと連動した画面を見ながら行うゲームですね。運動を続けられないという人は、まずこういうゲームから身体を動かす習慣をつくっていくのもひとつの方法です。
では最後に、「はたらく脳」にするために自転車運動以外に
効果的な方法があれば教えてください。
効果的な方法があれば教えてください。
仕事と同様に、段取りを組み立てて行動に移すという一連の動作は、家事や料理にも当てはまります。予定を立てて、何時までに何をすると考え、行動に移すことはまさに実行機能であり、認知的トレーニングになると考えられます。加齢による認知機能の低下の防止にも役立つかもしれません。
今回の実験にも表れたように、やはり身体を動かさないと脳も動かないことは明らかです。体力向上のためだけでなく、認知機能の向上につながることも理解して、前向きに運動に取り組んでいただきたいですね。
はたらく人のはたらく脳は、運動によってもたらされることが
よくわかりました。紙上先生、ありがとうございました。
よくわかりました。紙上先生、ありがとうございました。