2018.03.23 更新

車椅子よりも遠くに行ける。
病を克服し、札幌に自転車の魅力を広げる活動へ。

いまから25年ほど前、結婚を機に北海道札幌市に移住された太田さん。
起業家支援の仕事に携わる中で、起業家にふさわしいスマートな体型をという動機から自転車に乗りはじめ、半年間で10kgのダイエットに成功。さらに先天性股関節症の手術後、医師の許可を得て自転車に乗り続けた結果、医師が驚くほど回復されたそうです。
「あの頃の私にとって、自転車は遠くに連れていってくれる車椅子以上の存在だった」と語る太田さんが、その後なぜ自ら自転車に関わる活動に取り組まれたのか、その思いを話していただきました。

profile
profileSAPPORO BIKE PROJECT合同会社 代表
太田 明子さん

大阪市生まれ。兵庫県、愛知県、アラスカ州と移り住み、1993年北海道へ移住。1994年から移住支援のNPO法人私設北海道開拓使の会事務局長、2000年からITベンチャー支援インキュベーションカフェ札幌BizCafe(現NPO法人サッポロビスカフェ)事務局長を経て2002年独立。その後、北海道内各自治体や企業でセミナーの企画や講師、企業コンサルティングなどを務める。実業ではオリジナル自転車の販売や都市型サイクルツーリズムを実践するSAPPORO BIKE PROJECT合同会社の代表を務める。

後編の「太田さん」

  1. あたためた「SAPPORO BIKE」構想
  2. 仲間と一緒に独自のプロセスで商品化へ
  3. もっと札幌に自転車を、という強い思い

先天性股関節症の手術を経て、自転車での自由な行動と元気を取り戻した太田さん。「苦しかった」と振り返るその入院生活で、ひとつ大事にあたためていたアイデアがありました。ベッドから離れられない寝たきりの状況で描いたのは、「札幌の町に似合う自転車」の開発。札幌市内は坂が少ない平坦な道で、碁盤の目のように舗装路が整備され、自転車での通勤や移動に最適であることから、まずは札幌仕様のオリジナル自転車を作りたいという思いが固まっていったそうです。

Cyclingood
どうしてまた、札幌の町に似合う自転車を作ろうと思われたのですか?
太田さん
入院中の有り余る時間の中で、自分にとって自転車があることでとても健康的なライフスタイルを実現できていたという思いを新たにし、この札幌の町に合う...スタイル、サイズ、カラー、価格のバランスの取れた自転車の有り様を考えはじめました。人は「健康にいい」と言われても自転車に乗りません。そのため「かわいい」「かっこいい」と誰もが感覚的に共感でき「乗りたい」と感じられるスタイルがまずは必要だと思ったのです。
Cyclingood
お一人で自転車の開発を行われたのではないですよね?
太田さん
ええ、私の実業はシンクタンクの研究員で、道内の中小企業のコンサルティングや起業家育成を専門としています。普段お世話になっている大学教授、弁護士、公認会計士などの専門職の方々にまずは相談したところ、「いいね」と賛同を得てSAPPORO BIKE PROJECTを発足。私たちなりのアプローチで自転車の開発を進めることにしました。
Cyclingood
どのようなアプローチを実践されたのですか?
太田さん
札幌市民が欲しくなる自転車は市民に聞くのが一番と考え、住民向けのアンケートを行いました。価格、ハンドルのスタイル、変速機の有無など、住民の声を基に「SAPPORO BIKE」の原型を固めていきました。
Cyclingood
おもしろいですね。そのような自転車の作り方は珍しいような気がします。
太田さん
さらにこの自転車に乗ってもらいたいコアのターゲットイメージを作り上げました。30代後半の1LDKに住む男性を描き、私たちは「Mr. SAPPORO BIKE」と呼んでいました。価格はこのような人にとって手が届きやすい39,800円に設定し、スーツ姿でスタイリッシュに札幌の町を走れる自転車にこだわりました。

Cyclingood
「かっこ良さ」への太田さんのこだわりですね。
太田さん
はい。「かっこいいものは売れる」という信念がありましたから。若い世代がクルマに乗らないようになっている中で、自転車への市場性はあると読んでいました。ハンドルをフラットではなくブルホーンにしたのは、私がかっこいいスタイルにしたいと譲らなかったからです(笑)。
Cyclingood
自転車の企画・開発から製造段階へは順調に進んだのですか?
太田さん
いえいえ。それはもういろいろなトラブルがありました。スケジュール通りに進行できず、毎日のように中国の工場とやりとりをしていました。「もうムリ」と諦めかけたことが何度あったことか。そういうときにもプロジェクトメンバーがサポートしてくれて、予定より延期したものの何とか目標の100台の発売にこぎつけました。
Cyclingood
その100台の売れ行きはいかがだったのでしょう?
太田さん
東急ハンズさんで店頭展示をしてくださることになり、おかげさまで瞬く間に完売となりました。うちのプロジェクトのメンバー自らがチラシを配るなどPR活動をしてくれたことも功を奏したと思いますし、経営のプロがその知見を活かし、理念に基づいたぶれないモノづくりに取り組めたことが成功につながったのだと感じています。
Cyclingood
今回のオリジナル自転車の開発・販売をステップとして、どのような活動をめざされているのでしょうか?
太田さん
私にとってのゴールは、自転車販売を極めたいわけではなく、北海道に住む人の健康づくりに貢献したい、健康な人を増やしたいということです。SAPPORO BIKE PROJECTは合同会社として継続しながら、現在も都市型サイクルツーリズムやSAPPORO BIKEユーザーによるポタリングなどさまざまな企画を通じて自転車の楽しさを体験してもらう機会を提供しています。このような活動をさらに発展させていきたい、もっと多くの人に自転車を暮らしの楽しさや健康づくりに生かしてもらいたいと強く思っています。

Cyclingood
太田さんのその強い思いと行動力はどこから生まれてくるのでしょう?
太田さん
札幌市の住民の4人に1人はメタボだと言われています。そして雪の多い環境から、なかなか自転車のある生活が根付きにくいのがこの町の現状です。課題はたくさんありますし、いろんなことが思うように進みません。でも私の経験によって、自転車には人を幸せにするチカラがあることは間違いないと断言できます。今後も札幌市への事業提案などトライアルを続けて、この札幌の町に自転車がいまよりももっと価値のある、スタイリッシュなツールとして共存できるように尽力していきたいです。

すでに太田さんの頭の中には、あれをしたい、これもしたいというたくさんのプランがあり、
今もそのチャレンジに向かわれています。たとえば健康経営に自転車を活かす提案にしても
駐輪場の問題や企業側の理解などさまざまな課題があり、
一つひとつのハードルを超える策が必要に。
途方に暮れてしまう状況だと想像できますが、それでも太田さんがめげないのは、
「あんなにツラい思いをする人を増やしたくない」という強い思いがあるから。
太田さんのアイデアと、行動力と、仲間の皆さんとの連携によって、
みんなが憧れる「自転車のまち札幌」になる日がくることを楽しみにしています。

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