2022.05.25 更新

10年がかりの旅の果てに行き着いた、故郷の島々。
島民という一番の宝を生かし、
しまなみ海道の発展に力を注ぐ。

今や日本のみならず、世界中から注目されるサイクリングコース、しまなみ海道。
このフィールドで現在ポタリングガイドとして活躍されている宇都宮さんは、自転車を相棒に世界を旅した冒険家です。10年88カ国におよぶ世界旅行の果てに、故郷しまなみにたどり着いた経緯をお話しいただきました。

profile
profileNPO法人シクロツーリズムしまなみ ポタリングガイド
宇都宮 一成さん

1968年、愛媛県西予市宇和町生まれ。玉川大学教育学部卒業。メーカー勤務後にタンデム自転車で新婚旅行へ出発。その後10年かけて世界88カ国を周り、2007年帰国。現在はNPO法人シクロツーリズムしまなみでポタリングガイド等に従事。著書に、新婚旅行記『88ヶ国ふたり乗り自転車旅』や『世界でいちばん長いハネムーン』、しまなみ海道のガイドブック『しまなみ島走BOOK』、『しまなみ島走PLAN』などがある。

前編の「宇都宮さん」

  1. 世界を広げてくれた自転車旅
  2. 『花とアート』から『サイクリストの聖地へ』
  3. 人こそ、しまなみの宝

日差しにまだほのかな暖かさが残る11月下旬、Cyclingood取材班は広島県尾道市側からしまなみ海道を渡り、宇都宮さんの活動拠点である愛媛県今治市をめざしました。朝日に照らされる瀬戸内海を眺めていると、平日の早朝にも関わらず、ブルーラインの上を悠々と走るサイクリストの姿が。ここを自転車で走ったらどんなに気持ちいいだろうと期待が高まります。
実は今回、ポタリングガイドをされている宇都宮さんに、撮影を兼ねたポタリングツアーを事前にお願いしていました。ポタリングとは、自転車で散歩をするようにゆったり走ること。宇都宮さんの所属するシクロツーリズムしまなみでは、初心者向けの気軽なものからしまなみ海道全線走破まで、旅の目的に応じたオーダーメイドのツアーをコーディネートしているそう。私たちと合流するなり「ようきんさったね、さっそく行く?」と自転車に乗ろうとする宇都宮さんを「まあまあ」と止めて、まずはしまなみ海道でポタリングガイドをすることになった経緯からお聞きしました。

Cyclingood
宇都宮さんはタンデム自転車で世界一周の新婚旅行という異色の経歴をお持ちです。まずは自転車との出合いを教えていただけますか?
宇都宮さん
高校時代、当時住んでいた宇和町(現:西予市宇和町)から松山に遊びに行くため、約70kmの道のりをスポーツバイクで走っていました。そのうち目的地が九州になり、北海道になり、海外になり...。週末や夏休みが来るたびに距離が延びて、結局、新婚旅行も自転車で周りましたね。
Cyclingood
とても長い期間、新婚旅行を続けられたそうですね。
宇都宮さん
お金が尽きたら帰国するつもりで出発して、気づけば88カ国、あっという間に10年経っていました。5大陸制覇したこともあって「そろそろ帰ろうか」と思い、東南アジアから台湾、そして沖縄、四国へと帰ってきました。また旅に出たい気持ちは、今でもありますよ。

Cyclingood
それでも旅には出ず、現在はポタリングガイドとしてしまなみに根ざしておられます。
宇都宮さん
帰国したときにちょうど今治で、自転車で渡れる橋の特性を生かしたまちづくり事業がスタートしており、事業に携わっていた友人が「一緒にやろうよ」と声をかけてくれたのです。島民の方としまなみ観光モデルコースを作成することになり、その縁がつながって、今もこうしてしまなみにいます。
Cyclingood
しまなみ海道が開通したのは1999年。宇都宮さんが帰国したのは2007年ですから、すでに『サイクリストの聖地』への流れがあったのでしょうか。
宇都宮さん
いやぁ、まだまだその流れはなかったように思いますね。2009年に行われた『しまなみ海道開通10周年』のテーマは、『花とアート』。10年経っても、しまなみ海道活性化のツールとして自転車が取り上げられることはなかったのです。それでも私は、この場所に可能性を感じていました。島と島を橋でつないで自転車で渡れる、世界でも珍しい地形。そして何より、島民の皆さんが誰に対しても温かい。帰国したばかりの私のことも、すぐに受け入れてくださるほどでしたから。
Cyclingood
『サイクリストの聖地』以前のしまなみ海道を、どのように盛り上げてこられたのでしょう。
宇都宮さん
私が参加したまちづくり事業のゴールは、自転車での観光モデルコースの作成。しかし、事業が終了する頃、島民の方から「これで終わりなのか」と尋ねられました。確かに、しまなみ海道を本気で盛り上げるにはモデルコースだけでは不十分でしょう。そこで、まちづくり事業の中心メンバーとNPO法人を立ち上げ、まずは観光マップの作成に取りかかりました。

Cyclingood
旅慣れた宇都宮さんならではのこだわりを詰め込んだのでしょうか?
宇都宮さん
もちろん使い勝手は重視しましたが、一番のこだわりは、名物おばちゃんがいるお店や魅力的な路地など、モデルコースで伝え切れなかった地元の人だからこそ知っている情報を盛り込むことでした。しまなみの人々の温かさや表情が伝わるような本にしたかった。取材も撮影も、原稿執筆も自分たちで行い、『しまなみ島走MAP』と『しまなみ島走BOOK』を作りました。
Cyclingood
しまなみの一番の宝は"人"なのですね。
宇都宮さん
そうですね。どの島にも、ぜひ会ってほしい島民の顔が何人も浮かびます。私自身、本の制作のために島のすみずみまで走って取材したことで、いろいろな方と知り合うことができ、やはり"人"こそ宝だと実感しました。最近ではどこへ行っても「ナリちゃん、ナリちゃん」と声をかけてもらえますよ。
また、観光マップを作る傍ら、迷いやすい場所への看板の設置や緊急時のサポート体制の整備、ポタリングツアーやゲストハウスもスタート。そのうちにインバウンド需要などが追い風となり、年々サイクリストが増えていきました。
Cyclingood
今や多くのサイクリストが、『しまなみ島走MAP』や『しまなみ島走BOOK』を片手にしまなみ海道を巡っています。
宇都宮さん
お店の方から、「本のおかげでお客さんが来てくれるようになった」との声をいただくと本当にうれしいですね。「店をたたもうと思っていたけれど、もう少し頑張ってみるよ」と言っていただくこともあり、このために自分は働いているのだと実感します。

世界を巡った冒険家が旅の果てにたどり着いたのは、故郷の島々。その魅力は、誰でも自然に受け入れ、もてなす文化が育まれた島民一人ひとりだと宇都宮さんは語ります。
後編では、宇都宮さんにガイドしていただきしまなみ海道を巡ったポタリングレポートをお届けします!

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