2017.08.17 更新

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川崎医療福祉大学 医療技術学部 健康体育学科
教育学修士 理学療法士 
西本 哲也 准教授

学術修士(教育学)・理学療法士。1996年より川崎医療福祉大学医療技術学部リハビリテーション学科助手。2001年より同学科講師。2011年より川崎医療福祉大学医療技術学部健康体育学科講師。2012年より准教授。
Cyclingood
では先生、子どもが自転車に乗ることで
どのような能力を伸ばすことができると考えられるのでしょうか。
エビデンスがあるわけではないので断言はできませんが、自転車運動は私が研究しているコーディネーション能力と大いに関わっていると考えられます。コーディネーション能力とは言わば「人の調整力」。人が運動をするときに必要となるチカラを7つの項目に分類したもので、運動の質を高める働きをもっています。
Cyclingood
自転車がコーディネーション能力を高める可能性が高いと。
具体的にはどのようなことでしょう?
コーディネーション能力の7項目とは「識別能力」「反応能力」「連結能力」「変換能力」「定位能力」「バランス能力」「リズム能力」に分類されています。これら7つの能力が状況に応じて相互に関連し合い、身体を巧みに動かせるチカラになります。まずこの中で特に自転車で伸ばせると言えるのは「バランス能力」ですね。
Cyclingood
確かに二輪でバランスを取りながらぺダリングをする
という動きからバランス能力が身につく印象がありますね。
手とお尻で身体を支えながら左右交互にペダリングをするという動き、これは重心を身体の真ん中に保ち続けていることになります。つまり、無意識に重心移動の繰り返しを行っているんですね。左右の足でペダルを回転させて身体のバランスを保っているため、バランス能力を高めるにはぴったりの運動になります。
Cyclingood
バランス能力以外にはどのような能力を高める可能性が
考えられるでしょうか。
手でハンドルやブレーキを操作し、足でペダリングするという動きは2つ以上の動作を同時に行う「連結能力」に、移動中に周辺環境が変化し、その都度判断をしながら動作を変えることは「変換能力」に、さらに刺激に反応して動く「反応能力」にも影響があると考えられます。また走行中に信号を見てスピードを落とすという行為は、モノと自分との距離をつかむきっかけになり、距離感を調整する「定位能力」にも関わってくると言えますね。
Cyclingood
なるほど。自転車に乗るということは
たくさんの能力を伸ばすことにつながっているんですね。
コーディネーション能力は第一線で活躍しているスポーツ選手やアスリートにも注目され、トレーニングに活用されています。神経系型の発達に深く関わるこの7項目を遊びや運動を通じて子どものうちに育むことで、その後に通じる「身体を巧みに動かす能力」につながり、あらゆるスポーツに対応できる土台を形成できると考えられています。
Cyclingood
スポーツへの応用だけでなく
生きるチカラの土台ともいえそうですね。
ただ、自転車運動で身につく能力は、決して高いレベルの運動能力ではありません。それでも子どもにとって自転車に乗れるようになることは、大きな恐怖心を排除、克服したことにつながり、その他の運動にも前向きに取り組むきっかけになりやすいと考えられます。さらに自分で移動できる距離が大幅に伸びるため、自分の世界を大きく広げることにもつながるでしょう。
Cyclingood
これまで何となく子どもの成長に良いと思っていましたが、
その理由が見えてきました。
なかなか自転車に乗れなくて失敗することも実は大事なことです。「どうしたら乗れるようになるのか」と自ら前もって考え、トライすることは「フィードフォワード」と呼ばれる運動学習過程の中のひとつ。これは子どもの運動能力を高める重要なサイクルです。保護者の方も自転車の練習に付き添い、「出来た!」という成長の瞬間に立ち合われると良いのではないでしょうか。
Cyclingood
子どもの発育に深く関わるコーディネーション能力に
自転車運動が役立つことがよくわかりました。
西本先生、ありがとうございました。

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