2016.09.09 更新

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早稲田大学 スポーツ科学学術院
博士(体育科学) 
紙上 敬太 講師

2006年筑波大学大学院博士課程人間総合科学研究科体育科学専攻修了。2009年から3年間イリノイ大学で博士研究員(うち2年間は日本学術振興会海外特別研究員)など国内外での研究を精力的に行う。2015年より現職。専門は健康・スポーツ科学、健康・運動心理学。
Cyclingood
先生、「運動が子どもの脳に良い」と聞くと、どうしても成績が上がる、勉強ができると捉えてしまいがちですが...。
今回の研究プロジェクトの結果から、直接的に「運動で学力が高くなる」と言うことはできません。 しかし先ほどお話しした「抑制機能」「認知的柔軟性」という脳の機能は、高次脳機能の総称である「実行機能」と呼ばれる機能であり、これは学力の向上を含め豊かな人生に関わる重要な機能だと考えられています。
Cyclingood
豊かな人生に関わる!?
先生、その実行機能についてもう少し詳しく教えてください。
実行機能とは脳の前頭前野という部位が司っている機能で、具体的に言うと論理的思考力、計画力、問題解決能力などが含まれます。 筋道を立てて考える力、物事を推進していく力、そして課題に向き合って対応できる力が運動によって身につくと言い換えることができるのかもしれません。 さらに自制心は実行機能のひとつである抑制機能に含まれるので、「自分を抑える」つまりは我慢できる、キレないということにも関わってくると考えられます。 どうです?単に「成績が上がる」以上に、人生にとって非常に重要な機能だと思いませんか?
Cyclingood
全くその通りだと思います。子どもの頃からそのような「脳力」が身につくと人生が良い方へ進みそうです。
実行機能を英語では高度な機能という意味を含めて「エグゼクティブ・ファンクション」と言います。 実行機能は、生活の質を高め、仕事を成功に導き、円満な家庭生活をもたらすなど、私たちのサクセスに深く関わる機能であるという考え方もあるのです。
Cyclingood
ということは、有酸素運動は子どもだけでなく、大人の「脳」の機能を高める働きもあると。
もちろんそうです。 運動習慣のない高齢者を対象に行われたピッツバーグ大学での研究では、ウォーキングによって記憶を司る「海馬」という部位の体積が大きくなり、記憶力の向上に有酸素運動が関わっていたことが示されています。 通常、加齢によって海馬は萎縮していくものですが、この研究で興味深いのは運動がこのような加齢の影響を防ぐどころか、海馬を大きくしたことです。 このような研究結果から、習慣的な有酸素運動が認知症の予防に貢献する可能性が考えられます。
Cyclingood
いくつになっても運動が脳の活性化に効果があると。
これは自転車運動でも可能なのでしょうか。
自転車運動はウォーキングやジョギングと同じ有酸素運動に分類されますので、同じような効果が期待できると思います。
Cyclingood
ありがとうございます。 最後に、先生は運動によって脳活動を活発にするためにどんなことが必要だとお考えですか?
小学生を対象にした研究プロジェクトが、9カ月間運動を継続したことによって得られた結果であることを考えれば、やはり運動を習慣化することが大切です。 「運動が楽しい」、「運動すると気持ちいい」など、いわゆる内発的動機付けが、運動を習慣化できるカギだと思います。
Cyclingood
子どもだけでなく、親、祖父母の世代まで家族みんなで運動を楽しみ、身体と脳を健康にしていただきたいですね。
運動を習慣化することによって、お子さんには学力の向上、お年寄りには認知症予防、そして働き盛りの親世代には、仕事の効率化などが期待できるのではないでしょうか。 年齢にかかわらず「運動で脳活」を実践してもらえたらと思います。
Cyclingood
体力をつけるだけではない有酸素運動の魅力を知ることができ興味深かったです。
紙上先生、ありがとうございました。

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