2015.07.27 更新

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日本女子大学 家政学部 被服学科
博士(学術) 
佐々木 一茂 講師

2001年筑波大学大学院体育研究科修了。東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻修了後、2007年東京大学大学院総合文化研究科助教、2012年から日本女子大学家政学部被服学科講師に。研究分野は健康・スポーツ科学、特に骨格筋の生理学。全日本スキー連盟公認スキー指導員という一面も。
Cyclingood
佐々木先生、最近は特に若い女性が
痩せている傾向にあるそうですね。
肥満や痩せを判断する基準としては、BMI(体重【kg】を身長【m】の二乗で割った、体格の大きさを表す指数)が国際的に使われています。BMIが18.5未満であれば低体重、つまり痩せていると見なされます。日本の調査で約30年前にはBMI18.5未満の20代女性が10人に1人程度だったところ、現在は4~5人に1人の割合に。つまり、以前に比べて痩せている人がおよそ2倍に増えている計算になります。
Cyclingood
女性にとってはうれしいと感じがちな「痩せ」ですが、
このような状況になっているのには
何か原因があるのでしょうか。
一番大きな要因は、エネルギー摂取量、すなわち食べる量が減少してきているということにあるでしょう。これは性別も年代も問わず、日本人全体の傾向です。ひと昔前には食品にカロリー表示はなく、カロリーオフを謳う食品もなかった。しかし現在はご存知のように、手軽にカロリーカットをしやすい状況にあります。健康意識の高まりやダイエット人口の増加によって、日本人は30年前に比べて「食べなくなっている」と言えます。
Cyclingood
なるほど。食べる量が減っていることに加え、
女性の美意識の変化もあるように思うのですが...。
ええ、それもあるでしょう。BMIを基準にするのではなく、周囲の人と比べて「自分はどうか」と振り返り、「太っている」=「痩せなければ」と思い込んでいる女性は多いかもしれません。実際、平成20年の厚生労働省の調査によると「自分は太っている」と思っている20代女性は44%もいるのですが、BMI25以上(肥満)の人は1割未満でした。このように必要以上に「痩せなければ」と思い込んでしまう理由には、モデルさんへの憧れなど、いまの女性特有の美意識が影響しているのではないでしょうか。
Cyclingood
「痩せていればOK」と思いがちな女性のその価値観が、
実は将来的にとても危険だと先生はお考えなのですよね?
人間の身体は、筋肉と脂肪が体重の約6割を占めています。いまの若い女性は筋肉も脂肪も少ないため低体重傾向にあり、特に痩せたい意識の高い女性は「筋肉をつけたくない」と思いがちです。若いうちは筋肉量が少なくても脂肪量も少ないので問題になりにくいですが、筋肉が少ないまま年をとるとどうなるか。およそ40代を境に脂肪は増え、筋肉量は減少していき、特にふくらはぎや太もも、お尻などの立っているときによく使う「抗重力筋」と、瞬間的に力を発揮する「速筋線維(そっきんせんい)」という筋細胞の減少が目立ち、老化が加速する可能性があります。身体を支える筋肉が減り、瞬発力がない状態になると、転倒しやすくなるなど要介護となるリスクが高まります。
Cyclingood
つまり、若いうちにある程度筋肉を蓄えておかないと、
老化が進んでしまう要因になってしまうと。
もし、20代なのに50~60代レベルの筋肉量や体力しかない人がそのまま年をとったら、他の人よりも早く老化が進んでしまうでしょうね。女性は美意識的に「ムキムキな身体になりたくない」という思いが強いかもしれませんが、少し運動したくらいでそんな身体にはなりません。階段を使ったり歩く距離を伸ばしたりという生活活動に加え、たまには息が上がるくらいの少しキツめの運動を取り入れておくことで筋肉は鍛えられ、それが健康的で美しい身体を長期的に維持できる基盤になります。若い女性には「いま痩せていればいい」という短絡的な意識より、「ずっと美しくいるためにはどうすればいいか」という長期的な視点で、自分の身体と向き合ってほしいと思います。
Cyclingood
健康的な美しさを長く保つために、実は必要な「筋肉」。
次回は、女性特有のよくある不調と筋肉の関わり、
そして女性にうれしい自転車運動のメリットをご紹介します。

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