2019.08.23 更新

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明治大学 経営学部
鈴井 正敏 教授,博士(医学)

1982年明治大学経営学部経営学科卒業後、筑波大学体育研究科コーチ学(スポーツ生化学)修了。1998年4月より現職。主な研究テーマは健康科学、運動とNK細胞。明治大学体育会自転車部の副部長も務めている。

前編のお話

  1. ① わかっているようでわかっていない「免疫」の機能
  2. ② インフルエンザワクチンも免疫の機能を利用した一例
  3. ③ 免疫細胞の役割は「ブレーキ」と「アクセル」
  4. ④ 実はアスリートは風邪をひきやすい?!
Cyclingood
先生、「免疫」には身体を守る機能というイメージはあるのですが実はよくわかっていなくて...。具体的に教えていただけますか?
皆さん、免疫機能がしっかりと働いていれば風邪や病気になりにくい、というイメージはおもちだと思います。では風邪などのウィルスに対して免疫が具体的にどのような働きをしているのかをご説明しましょう。
Cyclingood
はい。
免疫っていったいどんな働きをしているのでしょうか?
たとえば風邪、正しくは上気道感染症にかかったときに、異物である病原体をいち早く発見し、攻撃を仕掛けます。さらにその病原体を記憶してその抗体を作り、次に病原体が体内に侵入した際にその病原体や感染細胞を排除して身体を守るのが免疫の働きです。
Cyclingood
侵入してきたウィルスと戦うだけでなく、
次に備えた防御まで行っているんですね?
防御のわかりやすい例がインフルエンザワクチンです。日本では毎年、東南アジアで春から夏頃に流行するインフルエンザウィルスから抗体を作り、ワクチンにしています。このワクチンを本格的に流行する前に体内に入れることで、免疫細胞に外部からの病原体の記憶を残しているのです。
Cyclingood
つまりこのウィルスは敵であるという
記憶を残しているのですね?
そのとおりです。敵だと認識しやすいため、実際にインフルエンザにかかった際に攻撃態勢を早めて症状を抑えます。これがワクチンの機能、つまり予防策となっています。
Cyclingood
なるほど。その免疫機能は具体的に
体内のどこで働いているのでしょうか?
免疫の主役は血液の白血球です。白血球といっても好中球・好酸球・好塩基球・リンパ球・単球などがそれぞれに役割をもって機能を分担しています。風邪などの例は自覚があってわかりやすいですが、実は人体では1分間に2〜3個のがん細胞が生まれています。これをパトロールしながら発見し、撃退しているのも免疫細胞が担っています。
Cyclingood
がん細胞にはどの免疫細胞が働いているのですか?
がん細胞にはリンパ球のNK細胞が体内をパトロールし、がん細胞を発見したら攻撃します。ウイルス感染ならリンパ球内のヘルパーT細胞が司令官となって、キラーT細胞が感染細胞に攻撃を仕掛け、B細胞がウイルスに対する抗体を作るというように、助け合う関係を持っている場合もあります。
Cyclingood
詳しく聞くと興味深いですね。
個々の細胞の役割がはっきりしているのですね。
そうです。異物の種類に応じてそれぞれに得意とする免疫細胞が出動して連携し、あらゆる戦い方をするのが免疫機能のおもしろいところ。免疫細胞にはブレーキとアクセル両方の役割があり、活性化や抑制化をしてばい菌や変性してしまった自身の細胞を掃除する働きももっています。
Cyclingood
よく「免疫力を上げる」「免疫力が高い」
という表現を聞きますが、
これはどういうことなのでしょう?
免疫はさまざまな細胞による「機能」であり「力」ではありません。免疫細胞を刺激すると自身の細胞を攻撃して多臓器不全になることもあるなど、決して「高い」ことだけが良いわけではありません。
Cyclingood
では先生、運動と免疫の関係についてはどうでしょうか?
体力がある人ほど免疫も強いイメージがあります。
ではもし体力がある人ほど免疫も強いなら、国際的なスポーツ大会に出場するアスリートは皆、風邪をひかない人たちということになります。しかし実際、彼らはよく体調を崩します。
Cyclingood
え?それはどういうことなのでしょう?
アスリートのようにハードなトレーニングを一定期間以上続けていると、ストレスがかかりすぎて副腎皮質からホルモンのひとつであるコルチゾールが分泌されて免疫機能を下げることがわかっています。また、激しいトレーニングによって若くて未熟な細胞が増え、体調を崩す要因のひとつになっていると考えられます。
Cyclingood
気になる運動と免疫の関係、
そして自転車運動の効果については
引き続き後編にて!お楽しみに。

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