2016.09.02 更新

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早稲田大学 スポーツ科学学術院
博士(体育科学) 
紙上 敬太 講師

2006年筑波大学大学院博士課程人間総合科学研究科体育科学専攻修了。2009年から3年間イリノイ大学で博士研究員(うち2年間は日本学術振興会海外特別研究員)など国内外での研究を精力的に行う。2015年より現職。専門は健康・スポーツ科学、健康・運動心理学。
Cyclingood
紙上先生はアメリカのイリノイ大学で3年間、子どもを対象にした脳と運動の研究に携わられていたそうですね。
イリノイ大学では、子どもの体力と脳機能の関係を研究しているヒルマン教授の研究プロジェクトに参加しました。約200名の小学生を対象に、子どもたちを運動を行うグループと運動をしないグループに分け、9カ月間の運動プログラム開始前と終了後の脳機能の変化を比較するというものでした。
Cyclingood
運動が得意な子どもとそうでない子どもがいますよね?
そのあたりはどのように選定されたのですか?
子どもの希望を聞いてグループを作るともちろん偏りが出てしまうため、こちらでランダムに振り分けました。小学生の時期は身体も脳も発達が著しいため、脳活動の変化がどこまで運動によるものなのかを把握するために、運動をしないグループを設けて、その変化を比較する必要があります。これは「ランダム化比較試験」と呼ばれる研究手法で、客観的に運動の効果を評価するために用いられます。
Cyclingood
なるほど。とても興味深いですね。では運動プログラム開始前と終了後ではどのような変化があったのでしょう?
結論から言うと、9カ月間運動を行ったグループに、「実行機能」と呼ばれる脳機能の向上が見られました。運動プログラム開始前と終了後に行ったテストの結果では、特に抑制機能と認知的柔軟性のテストの正解率が向上しました。また、運動プログラムに参加した子どもたちは、テスト中に脳を活発に働かせることができるようになっていました。
Cyclingood
それはすごいですね!ではその向上した
「抑制機能」とはどのようなものなのでしょうか。
このテストは5匹の魚が並ぶ画像を次々に見せて、真ん中の魚が左右どちらを向いているかを答えてもらうというものです。両端の4匹の魚の向きもランダムに変わるため、いかに中央の魚に集中して注意を向けられるか、いかに要らない両端の魚の情報を排除できるかによって正解率が変化します。 運動していたグループはしていないグループに比べこのテストの正解率の向上が大きかったことから、運動によって高い注意力と不要な情報を排除する能力、つまりは専門用語で言う「抑制機能」が高まったと考えられます。

Cyclingood
ではもう一つの正解率が飛躍的に上昇した
「認知的柔軟性」とはどのような機能でしょうか?
「認知的柔軟性」とは状況に応じて柔軟に思考や行動を切り替える機能です。 この機能を計測するテストは、数試行毎に課題のルールが変わる複雑なものです。 例えば、ある試行では画面に提示される絵の形を判断し、次の試行では絵の色を判断するといった具合です。 これは大人でもなかなか上手くできない難しいテストです。 このテストによって認知的な柔軟性を評価できるのですが、運動プログラムに参加した子どもはこのテストの成績が大きく向上していたのです。

Cyclingood
有酸素運動によって子どもの脳機能が活発化するとはうれしいニュースです。
この研究では脳波を計測して脳活動を評価しています。 その結果、運動プログラムに参加した子どもは認知テストを行うときに脳の活動を高めることができるようになったことが示されました。 定期的に運動を行うことで、知らず知らずのうちに脳を活性化する能力まで向上していると考えられますね。
Cyclingood
子どもの健やかな成長に深く関わる「脳」にまで影響を与える有酸素運動のチカラ。 その可能性について引き続き紙上先生におたずねしていきます!

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