2017.02.24 更新

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筑波大学大学院 人間総合科学研究科
スポーツ医学専攻 
久野 譜也 教授

1962年生まれ。スポーツ医学の分野においてサルコペニア肥満、中高年の筋力トレーニングなどを研究。2002年、筑波大学発のベンチャー「(株)つくばウエルネスリサーチ」を設立。最先端の健康政策の研究に取り組むと共に、科学的根拠に基づく健康増進や支援システムの普及に努めている。
Cyclingood
自転車は有酸素運動としてだけでなく、
筋トレとしての効果も期待できるのでしょうか。
筋トレとしての効果を得るなら、やはり筋トレにふさわしい「キツさ」が重要になります。そのキツさの目安は「ずっとこぎ続けていられない」状況です。短時間でもキツい時間をつくる、ということですね。例えばロングライドの間に坂道を上るなどのキツい運動を挟むことで、有酸素運動と筋トレの一石二鳥の自転車運動が可能になると思われます。
Cyclingood
なるほど。坂道を上る以外に
どんな負荷のかけ方が考えられますか?
10秒でも20秒でも坂道を積極的に活用する以外に、少しスピードを上げて走るという方法があります。通常は軽いギアでクルクルと回転させますが、ときには少しスピードを意識してみるのもいいでしょう。そうするとギアが同じままだと脚が空回りするので、ギアを一段階小さいほうに変速して、しっかりと自転車をこぎましょう。ただし、スピードの出しすぎには注意です。
Cyclingood
あえて少し重めのギアでしっかりこぐことを
意識する時間をつくるということですね。
そうです。負荷のコントロールができることは自転車運動のメリットですからね。あとは立ちこぎも太ももへの負荷が強く、筋トレとしては有効だと考えられます。ただバランス感覚がしっかりしていないと危険なので、こちらも注意が必要です。実はこのバランス感覚も、老化によって失っていく機能です。平衡感覚を維持しにくくなるため、特に高齢の方は無理をしないよう気をつけていただきたいですね。
Cyclingood
大腰筋と下肢の筋肉を鍛えるために
その他自転車運動で気をつけることはありますか?
ペダリング中に最も大腰筋を動かすタイミングは、実は引き足時。通常は左右の脚を交互に「踏み下ろす」ことを意識していると思いますが、「引き上げる」ことも意識してみましょう。実際には足がペダルに固定されていないと引き上げることができないので、「引き上げる感覚を意識して」脚を回すことが大切です。また、引き足は太ももを上げる動作と同様に大腰筋の働きに関わるため、太ももを高く上げることを意識しながらペダルを回すことも有効のようです。
Cyclingood
惰性で走らずに、脚の動きに意識を払って
ペダリングをすると効果が高まりそうです。
自転車はラクに走れるため意識しにくいですが、太ももからふくらはぎまで脚全体の筋肉を使うことができる運動であるため、日常的に利用するといいでしょう。そうそう、WHOが2010年に刊行したレポートによると、全世界の死亡者数における4番目の危険因子が「身体不活動(運動不足)」であることをご存知でしょうか。
Cyclingood
え、運動不足が死亡の危険因子?
そうなんです。1位が高血圧、2位が喫煙、3位が高血糖、そして4位が運動不足。5位は肥満ですね。この結果をよく見ると、運動不足を解消することによって、高血圧、高血糖、肥満の改善が見込め、これらの発症リスクを減らせることがわかります。運動不足を解消するだけで、です。いかに現代人にとって運動習慣が不足しているか、そして健康維持に、病気にならない身体にするために運動が重要かがご理解いただけるのではないでしょうか。
Cyclingood
自分の身体を生涯にわたって守るためには
運動の継続が重要だと実感します。
歩ける身体をいつまでも保つということは、その人の人生の質に深く関わっていきます。大腰筋をはじめとする筋肉は、いくつになっても鍛えられるもの。私たちの研究では、70代の女性が1年半運動習慣を続けた結果、大腰筋の筋量が8%増えたという結果があるほどです。ウォーキングや自転車運動による有酸素運動、スクワットなどの少し負荷のある筋トレ、どちらも継続していくことで、老けない身体を保ち、人生の幸福に結びつけていただきたいですね。
Cyclingood
大腰筋を衰えさせないことが老化の防止につながるだけでなく
運動習慣が死亡リスクを軽減することもよくわかりました。
久野先生、ありがとうございました。

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